祭りの思い出 9

夕飯の買い出しを終えたマークの母が帰宅し、家の扉を開けた。
「おっと、おばちゃんこんちわっ、ちょっくらマークと出掛けてくるわ」
カイルがそう言いながら玄関から出てこようとしたその後ろから、マークが現れた。
「母さん、ちょっと狩りに行ってくるよ」
いつも入念に手入れはしているものの、一度も着たことのないその装備に身を包み、少し泣き腫らした顔ではあったが、その目はまっすぐに向いていた。
「マーク、ちょっと待ちなさい!」
母は台所の隅をゴソゴソと何かを取り出してマークへと手渡した。
クーラーミートGだった。
「カイルの分もあるから、仲良く分けて食べなさい」
母は数日前にヴォルガノス亜種の噂を聞いてから、いつでも持参できるように毎晩、特製のクーラーミートをこしらえていたのだった。
「それと、これは父さんからよ」
母は秘薬の入った小瓶を二つ、マークへ渡した。
少し驚いたマークだったが、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、母さん・・・、じゃ行ってくる!」
母は、マークとカイルの姿が見えなくなるまで、玄関で見送った。
メゼポルタのクエスト受付でマークとカイルが受注しようとした時、受付嬢がカイルに気が付いた。
「カイルさん、先程からマスターが探してましたよ?」
「えっ?・・・、ちょっと行ってくるから、マーク、受注して待っててくれ」
と言うと、カイルは足早にギルドへ消えた。
『ヴォルガノス亜種の狩猟、依頼者ギルドマスター』
マークは、依頼内容をじっくりと何度も読み、手続きを済ませてカイルを待った。
カイルはすぐに戻ってきた。
「わりーわりー、さぁ行こうか!」
カイルも手続きを済ませ、火山へと出発した。
浜辺近くのベースキャンプで、ポーチの中を再確認する。
大丈夫、忘れ物は無い。
マークは目をつぶり、一呼吸した。
すると、すぐ傍で「今日もイったるでー!!」と雄叫びをあげながら、空に向かって龍撃砲を一発放つカイルがいた。
「ははっ、相変わらずなんだな、カイルは」
「コレをやらないと調子狂うんだよな」
カイルは、迷いの無いマークの顔付きを確認して安心した。
「さぁ、行こうか!!」
—————————————————————–
ベースキャンプを後にした二人は、溶岩地帯の手前で少し突き出た岩場に腰掛け、母からもらったクーラーミートGを食べた。
ヒンヤリしてて、実に美味しかった。
マークは、一口一口丁寧に味を噛みしめながら食べた。
なんだかスタミナも抜群にみなぎるようだった。
カイルも、旨い旨いと連呼しながらペロリとたいらげてしまった。
そして、秘薬の小瓶を一気に飲み干した。
マークは意を決したように頷くと、岩場を後にし、目的の溶岩地帯へと二人は突入した。
相変わらず、蒸し暑さと硫黄の匂いが鼻をつく。
わずかの草と実がなるだけで、ほとんどの植物は熱で枯れたのか、岩場と溶岩しかなく、虫一匹すらもそこに存在していなかった。
溶岩が流れる一帯の遠くに何か動く背ビレのようなものが見えた。
その溶岩の主は、溶岩の中からひょこっと顔を出してこちらを見ている。
「うわっ、でけーなー、これ金冠サイズじゃねえか?」
はしゃぐカイルと打って変わって、マークは久々に見たルーの姿に言葉を失った。
(あれ?まただれかきた)
(・・・まあくん?まあくんだ!まあくん、おっきくなったねー、ぼくもこんなにおっきくなったよー!!)
溶岩の主は、溶岩の中で大きくジャンプをした。
溶岩の塊が二人の傍まで飛び散った。
「あっぶねー」
カイルは咄嗟に横っ飛びをしてその塊を避けた。
マークは、運良くその塊にはぶつからなかったものの、ルーの姿を黙って見ていた。
「ルー・・・」

祭りの思い出 8

マークは客人を招き入れると、茶を入れた。
「しばらくぶりだなー。相変わらず今でもソロってるんだって?」
茶をすすりながら男性は馴れ馴れしい口調でマークに話掛ける。
「カイルだって・・・、この前古龍を討伐したんだって?噂は聞いてるよ」
カイルはニヤニヤしながら言った。
「お前・・・、雰囲気変わったな」
「僕だって、いつまでも子供じゃないさ」
マークは大人になっていた。
人との会話はある程度できるようになった。
社会に出るようになってからは、そうでもしないと生きていけない事を身に染みて知ったからだ。
だが、心を許せる友はいまだに一人もいなかった。
「突然訪ねて来るなんてどうしたんだい?」
「お、おぅ・・・、お前知ってるか?今朝から貼り出された新規のクエスト」
「いや、今日はまだ狩りに行ってないからね。何のクエストだい?」
カイルは一口茶をすすって言った。
「ヴォルガノスの亜種だそうだ」
ガチャンっ。
マークは持っていた湯呑みをテーブルへ落としてしまった。
一瞬間を置いて、慌ててこぼした茶を拭き取る。
「へ・・・へぇ、そうなんだ・・・」
震えた手で割れた湯呑みの欠片を一つずつ拾うマークをカイルはだまって見ていた。
「今朝からもう何組かのパーティーが出発してるが、どれも失敗だったらしいぜ」
マークは、何も聞こえてないかのように片付けを続ける。
「悠長に茶なんか飲んでる場合か?」
「・・・・・・・・・」
一瞬手を止めたマークだったが、平静を装ってマークはカイルに言った。
「どうしてカイルにそんな事を言われなきゃならないんだ?」
カイルは深く息を吸うと、静かに言葉を発した。
「ルーなんだろう?」
マークは、動かしていた手を完全に止め、カイルの顔を見た。
「どうしてそれを・・・?!」
カイルは、既に空になって手の中で持余している湯呑みを静かにテーブルの上へ置いた。
「あの日・・・」
カイルは、数年前のあの日、ギルドの廊下でマークとすれ違ったこと、自分がギルドマスターの孫であること、そしてあの日の出来事を全て聞いて知っていたことをマークに告げた。
マークは、「そうか」と小さく言い放ち、深い溜息を吐いた。
「僕は・・・、僕は、今でも答えが出てないんだ。あの日からずっと・・・、最悪の事態になる事を考えて、その時、僕のやるべき事を考えていたさ。」
カイルは黙ってマークの話を聞いた。
「毎日毎日、朝起きてから寝るまでの間ずっと・・・、考えすぎて眠れない日も多々あったさ。最近になって少しずつ・・・、気が付いた時にはもう他の人が討伐していた・・・っていう方が気が楽になるかもしれないなんて思ってきたんだ」
カイルは突然、テーブルを両手で叩いた。
ガチャンっと、その振動で揺れた湯呑みが倒れた。
「また逃げんのかよっ!!」
思いもよらぬカイルの怒鳴り声に、マークは目を見開いた。
「今頃になって他人に自分の尻拭いをさせんのか?お前は昔っからずっと逃げてんだよ!何もかも、まわりの全てや、俺の話だって最後まで聞いた事あんのかよっ?!自分が一番の被害者ヅラすんな!!」
マークはハッとした。
自分が傷付きたくないだけで、まわりと一定の距離を置いていた。
その事で誰かが傷付くとは思いもよらなかった。
「一番傷付いているのは、俺でもねえ、ましてやお前でもねえ、・・・ずっと一人で待ってるルーなんじゃねえのか!!」
マークの目から、大きな一粒の涙がこぼれた。
「でも僕は・・・、僕は・・・」
大人になってからも、マークはいまだに魚竜種を狩れずにいた。
それを知っていたカイルは、マークの肩に手を置き、微笑みながら静かに言った。
「俺様が一緒に行ってやんよっ」

祭りの思い出 7

自宅へと帰ってきたマークは、ただならぬ様子で帰宅した息子に気付いた母の問いかけに気付いていないのか、無言のまま自室へと消えた。
「ちょっと、兄さん、何かあったの?」
マークの母は一緒だった叔父へと聞いた。
居間では、マークの父が釣り道具の手入れをしていたが、こちらには無関心のようだった。
叔父は、小さな溜息をついてから言った。
「お前達、いつも喧嘩している暇があるなら、マークの事を少しは気にかけたらどうだ?あの子が学校でどんな思いをしているか、あの子がいつも何を思っているか、もう少しあの子の事を考えてやってくれ」
両親は互いの顔を見つめた。
叔父は、先の出来事を全て両親へと話した。
「あの子は・・・、マークはこの先、厳しい選択をしなくてはならない時がくるかもしれない。その時は・・・、どちらにせよ、温かく見守ってやってくれ」
両手で口を塞ぎ涙ぐむ母と、下を向いたままの父を残して叔父は静かに出て行った。
マークは一週間、学校を休んだ。
事情を聞いていた両親は、マークを責めたりせずにそっと見守ることにした。
マークはこの一週間、自分の部屋に引き籠った。
自分のした事で、原種が絶滅してしまうかもしれない。
いや、火山一帯の生態系そのものが大きく崩れてしまうかもしれない。
万が一・・・万が一、そうなった時は、討伐・・・、討伐・・・、討伐。
友達だったルーを果たして自分は討伐できるのか?
それとも自分じゃなく、他の誰かに討伐してもらった方が・・・。
色々と考えたが、答えは出ない。
・・・答えは出ないが、最悪の事態だけは考えた方が良い。
一週間が過ぎ、マークは学校へと行った。
いつもと同じ学校、いつもと同じ教室、いつもと同じクラスメイト、いつもと同じ勉強、いつもと同じ演習、いつもと同じ休み時間。
違うのは自分だけだった。
いつにも増してよく勉強し、演習では更に狩りの腕を上げるべく、難しいレベルのクエストにも率先して参加した。
もちろん、ソロで。
あれから、マークに対してカイルは何も絡んでこようとはしなかった。
演習では、各種族に対する狩猟の得点が付けられ、総合点が決まる。
鳥竜種、牙獣種、甲殻種、飛竜種・・・とほぼ全ての種族の得点は、満点だった。
只の一つ魚竜種を除いては。
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無事に学校を卒業し、数年が経った。
今では立派なハンターとして、マークは家計を支えていた。
大人になった今でも、ソロで狩猟している為、クエスト達成には少々時間がかかるものの、失敗した事は今までに一度も無かった。
マークは今までに狩猟した報酬で、強力な武器や防具を生産した。
その中でも最も強力とされる武器と防具を、いつしか使う日が来るであろう事を考え、毎日の手入れは欠かさなかった。
ある晴れた日の午後、マークの家に体格の良い男性が訪ねて来た。
両親が不在だったので、マークが出迎えた。
「よぉ、元気か?」
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蒸し暑さと硫黄の匂いが激しい火山の溶岩地帯。
溶岩の中で何かの背ビレがすーっと動いた。
そのエリアの入口から4人のハンター達がやって来る。
溶岩の主は、ひょこっと顔を出してキョロキョロと辺りを見渡した。
そしてハンターの姿を見付けた。
(あれ?まあくん?)
(おーい、ぼくはここだよー!)
その主は、勢いよく溶岩の水面でジャンプをし、溶岩を陸地へと巻き散らかした。

祭りの思い出 6

マークは、空になった鍋を机の上に置き、散乱した自分の部屋を掃除した。
掃除しながらまた泣いた。
と、その時、叔父がマークの家を訪ねて来た。
泣き腫らしたマークの顔を見て、叔父は何があったのかマークに聞いた。
マークは、ルーを今しがた火山へ放流してきたことを伝えた。
「あぁ、何てことを!!」
叔父は自分の頭を両手で抱えた。
「マーク、最初にヴォルガノスを預かる時の五つの約束を覚えてるか?」
マークは、一つずつその約束を口にした。
「・・・四つ目エサは1日3回、五つ目、・・・あっ」
『五つ目、決して火山へ放流しない』
「ど、どうしよう、叔父さん?!」
実は今日、ギルドからヴォルガノスを故郷へ帰す手配が済んだと連絡が来たことを叔父はマークへ伝えた。
「正直にギルドマスターへ話をするしかないだろうな・・・」
マークは自分のした事の重大さに気付き、号泣した。
マークが落ち着いた頃、叔父はマークと一緒にギルドへとやって来た。
ギルドマスターへと取り次いでもらい、マスター室へと通された。
そこにはギルドマスターと呼ばれる小柄な老人が、大きな机にちょこんと座ってキセルを吹かしていた。
終始涙ぐみながら俯いていたマークに代わり、叔父が説明をした。
マスターは、キセルを静かに置いた。
「話は分かっぞい。だが溶岩の中でヴォルガノスの稚魚を探すのは到底無理な話じゃろうて」
うーむとマスターはその短い腕を組み、目を瞑りながら考え込んだ。
「原種がうようよといる火山で果たして亜種の稚魚が無事育つかどうかも分からん。万が一、亜種の稚魚が立派に育ち、火山の生態系を脅かす存在となり得るなら、ギルドから討伐の依頼をせにゃならんのう」
ルーを討伐?
それまで俯いていたマークは初めて顔を上げた。
「そうじゃろう、小僧?」
ルーが討伐されるなんて考えてもみなかった。
マークは頭が真っ白になって言葉を失った。
取り敢えずは、数年様子を見るということで話が終わり、叔父とマークは深々とお辞儀をしてマスター室を後にした。
俯くマークの肩を叔父が支えながら、長い廊下を歩いた。
人気の無い廊下で、一人の少年とすれ違った。
カイルだった。
マークは俯いていた為、それがカイルだったとは気付かなかった。
が、カイルはすぐにマークだと気付いたが、声を掛けられるような雰囲気ではなかったので、そのまま静かにすれ違った。
カイルはマスター室にノックもせずに入った。
「よぉ、じぃちゃん!」

祭りの思い出 5

マークは自宅に帰ってきた。
自分の部屋に入ると、辺り一面に濁った湯が冷めて凝固したのか、黒い塊が散乱していた。
「・・・なんだよコレ・・・?!」
よく見渡すと、部屋の隅に置いてあった虫カゴが倒れて、その傍にぐったりとしたルーが横たわっていた。
慌ててルーを拾い、鍋の中に入れた。
ルーの身体は少し冷めていた。
ぐつぐつと煮立った鍋の中で、しばらくルーは動かなかった。
ルーが湯を巻き散らかしたおかげで、鍋の中の湯が減っていた。
急いで湯を沸かし、鍋の中へ注ぎ足した。
「ルー!ルー!!」
大声で呼び続けると、ルーはピクっと動き、鍋の中を泳ぎだした。
マークはホッとした。
「ダメじゃないか、鍋から出たら・・・」
ルーはマークが帰ってきた事に喜び、いつものように湯を飛び跳ねた。
飛び散る湯の一滴がマークの頬に当たった。
熱かった。
頬が焼けるように熱かった。
泣いた時に、防具を着たまま頬を伝う涙を拭ったので、その時に腕を保護していた鱗で頬を少し擦りむいていたのだ。
「なんでルーまで・・・」
マークは、熱くてヒリヒリした頬に手を当てながら、悲しいやら悔しいやら色々な感情が一気に込み上げてきた。
マークは、ルーの入った鍋に蓋をすると、その鍋を持って部屋を飛び出した。
そこはさっきまで演習で来ていた火山地帯だった。
クーラードリンクも飲まずに溶岩が流れる付近へ来た為、汗がどっぷりと噴出してくる。
溶岩が流れる傍まで来ると、マークは鍋の蓋をはずした。
ルーは懐かしい硫黄の香りと心地よい蒸し暑さに、湯から顔を出してキョロキョロと辺りを見渡した。
遠い故郷に似た光景だった。
嬉しいのか、ルーは湯から飛び出して、熱くなった地面を溶岩に向かって這いずりだした。
この方がルーにとってもボクにとっても幸せなんだ。
マークは溶岩へと向かうルーを見つめながらそう思った。
ルーは、ジャポンと飛沫をあげて溶岩の中へと飛び込んだ。
そこは今までの鍋の中とは全然違う天然の溶岩だった。
水を得た魚のように、天然の溶岩の中を気持ちよさそうにルーは沖へ向かって泳いだ。
(わーい、わーい)
何度か飛び跳ねると、今度は岸へ向かって泳いできた。
そして溶岩から顔をひょこっと出した。
(あれ、まあくん?)

祭りの思い出 4

ヴォルガノスのルーを預かって、はや一週間が過ぎた。
あれからギルドからの連絡はまだ無い。
ルーは、狭い鍋の中で一日を過ごす。
鍋の外の世界は、湯から顔を出さないと何も見えない。
マークが学校へ行ってしまうと、この鍋、いや、この部屋にはルーただ一匹だった。
しーんと静まり返った部屋の中で、ルーは退屈していた。
暇つぶしに、湯から飛び跳ねては辺りへ湯を巻き散らかしたりしていた。
湯から顔を出し、じーっと部屋の中を見渡す。
すると、部屋の隅に、マークがルーへのおやつとして捕まえていた虫が入った虫カゴを見つけた。
虫カゴの中では、虫が一匹動いていた。
(なんだろうあれ?)
その頃、学校では近くの火山地帯で自由演習をしていた。
浜辺をベースキャンプとし、1パーティーにつき燃石炭5個の納品がマストとされ、途中での小型モンスターの狩りは自由とされていた。
燃石炭は、貴重な燃料とされている為、採取した分は全てギルドに納品されるが、紅蓮石等は持ち帰りが自由とされていた為、マークはルーの為にいくつか紅蓮石を持ち帰りたかった。
マークは支給品のボロピッケルを受取り、一人で採取に向かった。
燃石炭は十分過ぎる程採れたが、紅蓮石が一向に採れない。
とうとう最後のボロピッケルが壊れてしまった。
クーラードリンクも切れたし、今日はもう納品して帰ろう、そう思った時にカイルがこちらに向かって歩いてきた。
一人だった。
いつもは必ず4人パーティーなのに、今日に限ってカイルは一人だった。
「よおっ!石採れたか?」
マークは無視して通り過ぎようとした。
「おい待てよっ!」
カイルは通り過ぎようとしたマークの腕を掴んだ。
カイルはマークとは違って体格が大きく、がっしりと掴んだ手をマークを振りほどけなかった。
「なっ、なんだよ?!」
「人が話掛けてるのに、無視するんじゃねえよ!」
「ボクのことは放っておいてくれ」
「・・・お前さぁ、今日みたいなクエはソロでもいいけど、討伐クエん時ぐらい仲間がいないと万が一の時、お前を助けるヤツは誰もいないんだぞ?」
「わ、分かってるよ、そんな事」
「・・・明日の討伐クエ、俺と組まねえか?ガンランスNo.1の俺様とランスNo.1のお前が組めば・・・」
「どうしてボクのこと嫌ってるカイルがボクと組むのさ?!」
マークはカイルの言葉を遮った。
「・・・誰がいつお前のこと嫌いだって言った?」
「みんな嫌ってるじゃないか!ボクのことなんて・・・ボクだって嫌いだ!放っておいてくれよ!!」
マークはカイルの腕を思い切り振り切って、ベースキャンプへと走って行った。
きっとカイルはボクと組んで、狩りの最中ボクに何か嫌がらせをするに決まってる。
そんな目に合うなら、最初からパーティーなんて組みたくない。
マークは走りながら泣いた。

祭りの思い出 3

翌朝、叔父は例のヴォルガノスの件を相談しにギルドへと向かった。
ギルドの出した答えは、まずは出生地を探し、その地のギルドに話をして、どのような手段で誰がヴォルガノスを運搬するかを決めるので、それまでヴォルガノスを預かってて欲しいとの事だった。
少年の家では、両親は最初に驚いたものの、数日間預かるだけと聞いて安心したのか、ヴォルガノスの世話を少年へ託した。
少年は自分の部屋の机の上に、煉瓦を敷き詰めその上に鍋を置いた。
しばらく鍋を眺めていると、湯の中からヴォルガノスがひょこっと顔を出した。
「ボクはマーク。しばらくおまえの面倒を見ることになったんだ、よろしくな」
ヴォルガノスはじーっとマークの顔を見つめた。
(・・・まあく?・・・まあくん?まあくん!!)
ヴォルガノスは嬉しそうに濁った湯の中で飛び跳ねた。
「コラコラっ、跳ねたら熱いよ!」
湯のしぶきが辺りに飛び散る。
「そうだ!短い間だけど、おまえにも名前を付けなきゃ・・・」
ヴォルガノスかぁ、ヴォルガノス・・・ヴォル・・・
そうだ!ヴォルガノスのルーにしよう。
「よしっ、おまえは今日からルーだ!」
(るー?ぼくのなまえ、るー?)
ルーは、喜んで狭い鍋の中をぐるぐると泳いだ。
叔父に言われた事は、五つ。
1日おきに湯を取替えること。
紅蓮石と燃石炭は、3日に一回取り替えること。
エサは、湯の中に入れずに直接食べさせること。
何を食べるのか、ヴォルガノスの生態はまだはっきりとされてなく、まだ稚魚ということもある為、一口大に切った肉を1日に3回食べさせること。
マークは、朝起きてルーに食事をさせ、学校から帰ってきて食事をさせながら今日一日の出来事を話して聞かせ、夜寝る前に食事をさせるという毎日を繰り返した。
「ルーは、ボクの友達だよ」
(とも・・だち?)
「学校は・・・嫌いじゃないけど、休み時間は嫌いなんだ」
マークは、勉強や狩りの演習は好きだったが、同じクラスに友達と呼べる人がいなかった。
まわりの生徒もあまり話たがらないマークを、空気のような存在にしか思っていない者がほとんどだった。
「それでね、よくボクにイジワルしてくるヤツがいるんだけど、ソイツの事は・・・嫌いなんだ」
狩りの演習は、基礎は去年で終わったので、今年からは応用として、各自好きな武器を使うことができた。
マークは、ランスを選択した。
モンスターの攻撃を盾でしっかりとガードし、狙った部位への攻撃をはずさない、マークはクラスの中でランスの使い方が一番上手だった。
そんなマークに嫉妬したのか、自由演習の時間になると、必ずといっていいほど、何かと同じクラスのカイルがマークに絡んでくる。
カイルは、自由演習開始の合図と同時に、
「今日も俺のロマン砲をぶっ放すゼーーっ!!」
と叫んで、空に向かって竜撃砲を一発放ってから目的地へ走り去る。
クラスでガンランスを選択しているのは、カイル一人だった。
他の生徒は、基礎演習時にガンランスの砲撃で味方の生徒を巻き込んだりと、なかなか上手に使いこなすことができず、ガンランスを選択する者はいなかった。
が、カイルだけは一度たりとも生徒を巻き込んで砲撃を放つことなく、ガンランスの扱いに長けていた。
また、少々口は悪いが、いつも陽気な性格からかクラスの人気者で、いつもカイルのまわりには人だかりができていた。
ある休み時間に、教室でマークが狩りの手引きを読んでいると、前の席にカイルがどっかりと座り、マークに言った。
「お前さー、いつまでソロで狩るつもりだよっ?」
自由演習は、各自が4人まで好きなパーティーを組むことができる。
もちろん、ソロでも可能だ。
マークはいつもソロで狩りをしている為、いつも討伐時間がかかってしまう。
「そ、そんなのカイルに関係ないじゃないか!放っといてくれよ!!」
マークは手引きを持って教室から出て行った。
カイルは、やれやれといった感じで溜息を付き、クラスの友達の輪の中へ戻った。
「カイル、なんでマークなんか相手にするんだよ?」
「アイツのことは放っておけばいいのさ」
まわりは次々に、マークの事は放っておけと言わんばかりに口を開く。
「・・・まぁな」
カイルはマークが出ていった教室の扉を見つめた。

祭りの思い出 2

魚の入った小さなビニール袋を大事そうに抱え、少年は急ぎ足で広場を後にした。
(叔父さんならこの魚を治してくれるかもしれない)
少年は、例の弱った魚を店主がすくう前に、思わずすくって自分のカップに入れたのだった。
今にも死にそうな魚をすくった少年に店主はポカンとした顔をしたが、商売なのか何も言わずに小さなビニールへその魚を移してやったのだった。
少年の叔父は、広場から少し離れた所で小さな動物病院を営んでいた。
病院に来る患者のほとんどはプーギーやグークだったが、家畜の往診もしていて、その腕もさる事ながら人格者でもあり、人々からも慕われていた。
そして、少年が唯一心を開ける人間でもあった。
少年に動物との触れ合いを教えてくれたのもこの叔父だった。
「もう少しだから我慢してくれ」
少年は魚へと話し掛けながら、魚へあまり負担をかけないように気を付けながら更に足を早めた。
叔父の病院が見えてきた。
どうやら閉院の時間らしく、叔父が入口に立て掛けてある診療中の札を引っ繰り返している。
「叔父さーんっ」
少年は叫びながら叔父の元へと駆け出した。
こんな時間にどうしたのかと少しびっくりした叔父であったが、いつも通りの優しい笑顔で息を切らした少年を病院の中へと招き入れた。
「やぁマーク、今日はどうしたんだい?」
待合室のソファーに腰掛けた叔父は少年に話し掛けた。
少年は、魚の入ったビニール袋を大事そうに抱えながら叔父の隣りに座った。
「叔父さん、この魚、病気みたいなんだけど治るかな?」
少年は、抱えていた魚の入ったビニール袋を叔父の目の前に差し出した。
「どれどれ……?!……こ、これはっ!!マーク、この魚はどうしたんだ?」
ビニール袋を受け取った叔父は、様々な角度からこの魚を観察し、何かに気付いたのか慌てだした。
少年は、祭りの春夜鯉スクイでの出来事を全て話した。
「どうしてそんな所に混じっていたのかは疑問だが…、マーク、これは春夜鯉じゃない!」
「えっ?!」
「いいか?コイツはヴォルガノスの稚魚だ。かなりデカくなるし、冷たい水の中では生きられないんだ」
少年は、小さい頃に読んだ魚類図鑑を思い出した。
ヴォルガノス。
主に火山地帯に生息し、溶岩の中を泳ぎ回り、体長約20メートル前後までに成長する。
「叔父さん、ヴォルガノスって確か黒かったよね?コイツ赤っぽいよ?」
「うん、どうやらコイツはヴォルガノスの亜種かもしれないな…。とりあえずこのままでは死んでしまう。お湯を沸かして応急処置をしよう!」
叔父はドタバタとやかんを探したり、水槽代わりとなる鍋を探し出した。
鍋に沸騰した湯を入れ、疑似溶岩として普段は炭として使われる燃石炭と紅蓮石を湯の中へいくつか投入した。
すると、鍋の中ではいつまでもぐつぐつと紅く染まった湯が煮えたぎっている。
湯の中に移されたヴォルガノスは、まさに水を得た魚のように鍋の狭い世界を元気に泳ぎだした。
ともあれ一段落したのも束の間、叔父は深い溜め息を一つ洩らした。
「どうしたの?叔父さん」
叔父は少年に話し掛けられたにも関わらず、深刻な顔つきで何かを考えているようだった。
「ねえ、叔父さんってば?!」
はっと気付いた叔父は、少年をしばらく見つめると重い口を開いた。
「いいか?マーク、このヴォルガノスの亜種は本来この辺りには生息していないんだ」叔父は語りだした。
春夜鯉の調達段階で混じっていたにしても、この地域には生息していない為、遠い異国からの輸入の際に何らかの手違いで混じってしまった可能性が高い。
この地域の火山に放すと、本来存在しないはずの生物によって、現在の生態系がくずれてしまうかもしれない。
元の居場所へ戻すには、ギルドに相談してみないといけないという事だった。
ただ、今日はもう遅いし、明日の早朝に相談したところですぐにどうのという事にはならないだろうから、1~2週間はこちらで預からないとダメかもしれない。
「だったら、その間ボクが預かるよ!」

祭りの思い出 1

今日のメゼポルタ広場はいつになく、あちこちに派手な飾り付けや旗などが並び、いつにもまして賑やかな雰囲気だ。
そう、今日は年に数回ある祭りだ。
溢れる人混みの中に一人の少年がいた。
僅かばかりの小遣いを握り締めた少年は、人混みを掻き分け、目的地へと急いでいた。
少年は、いくつもの出店が立ち並ぶ中で、『春夜鯉すくい』と書かれた看板の店の前で立ち止まった。
そこには、横長の高さがあまりない水槽に春夜鯉の幼魚達が所狭しと泳いでいる。
少年は、握り締めていた小遣いを数え直し、店主へと渡した。
「一回分でお願いします」
「はいよ、鯉すくいは初めてか?」
少年は小さく頷きながら、今にも破けてしまいそうなスクイを受け取り、そのスクイを大事そうに握り締めながら、キラキラとした眼差しで春夜鯉達を眺めた。
少年は、常日頃から他人とは一定の距離を置くようにしていた。
家では絶えず夫婦喧嘩をする両親、外では色々な噂話に花を咲かせる近所の人達、そんなまわりの大人達に囲まれて過ごす内に、いつしかマークは他人はおろか、身内でさえも一定の距離を置き、必要最低限の会話しかしないようになった。
思いもよらぬ一言で相手を傷付けたり、逆に傷付けられたりするのが嫌だったからだ。
そして少年は、友達と遊ぶよりも動物と一緒にいる方が気が楽で楽しかった。
中でも、魚が一番好きだった。
静かに泳ぎながら、自分の話を黙って聞いてくれるからだ。
いつもは、こっそり密林の浜辺に寄ってくる魚達が相手だが、毎日一緒にいられるパートナーとしての魚が欲しくて、祭りである今日この日を少年は待ちわびていた。
少年は、どの魚を狙おうか端から順に魚達を眺めた。
すると、どこか元気無さげにスイーっと一泳ぎしてはプカーッと浮かび、それを繰り返す魚が目に入ってきた。
(いや、コイツはダメだ。きっと病気なんだ。だって体の色が他とは少し違うし、今にも死にそうだ)
少年は、その魚を見なかった事にして他の魚を物色しだした。
しかし、一度気になってしまうと、知らぬ内に自然と目が追ってしまう。
(だめだ、だめだ。見ないようにしないと・・・)
だが、やはり気になるモノは気になってしまう。
少年は小さな溜め息を吐くと、この魚はダメなんだと自分自身が納得するまで観察してやることにした。
その魚は相変わらず、一泳ぎしたかと思うプカリと浮かび、それを一様に繰り返していた。
(無理に泳がなくても、ずっと浮かんでいればいいじゃないか)
少年は、何故その魚がそんなにも必死に泳ごうとしているのかが疑問だった。
すると、店主の「チッ!」という声に顔を上げると、店主が少年が座り込んでいる場所の斜め前でプカーと死んだように浮かび上がっている別の魚を頑丈な網でできたスクイで取り除き、脇に置いてあるバケツへと乱雑に捨てた。
バケツの中をちらっと覗くと、ピチッと跳ね上がるモノもいたが、そのほとんどが死骸となってしまった魚達だった。
どうやら死骸はもちろんのこと、売り物にならない弱った魚も、バケツ行きとなってしまうようだ。
少年が気になるその魚は、自分がバケツ行きにならないよう、懸命に泳ごうとしているかのように少年の目に映った。
(どうせコイツもその内、あのバケツ行きになるんだ…)
少年の目の前で、その魚が再びプカーと浮かび始めた時、店主はその弱った魚に気が付いたのか、バケツに入れてある頑丈な網に手をかけた。

火属性攻撃強化装備(非課金)

武:炎妃剣【渇愛】           天壁珠G 天壁珠G ○
頭:猟団員の証【闘技】    Lv7  98 雷神珠  雷神珠  ○
胴:バサルRメイル      Lv7 129 火攻珠G
腕:アトラFアーム      Lv7 123 神足珠  神足珠  軽足珠
腰:デスギアナーベルSP    Lv7 109 耐絶珠SP
脚:バサルRグリーヴ     Lv7  98 雷神珠  雷神珠  軽足珠
カフ:                  火攻撃カフSA1 ●
防御力:558 火耐性:10 水耐性:-2 雷耐性:33 氷耐性:-7 龍耐性:-11
発動スキル
気絶無効,ガード性能+2,雷耐性+30,回避性能+2,火属性攻撃強化【大】,攻撃力UP【中】,高級耳栓,麻痺半減,アイテム使用強化,早食い
武:                   天壁珠G 天壁珠G
頭:猟団員の証【闘技】    Lv7  98 神足珠 神足珠 軽足珠
胴:バサルRメイル      Lv7 129 火攻珠G
腕:モノブロスLアーム    Lv7 129 剛力珠 剛力珠
腰:デスギアナーベルSP    Lv7 109 研磨珠SP
脚:バサルRグリーヴ     Lv7  98 音無珠G 音無珠G 受身珠G
カフ:                   火攻撃カフSA1 ●
防御力:564 火耐性:9 水耐性:-1 雷耐性:0 氷耐性:-10 龍耐性:-10
発動スキル
ガード性能+2,回避性能+2,火属性攻撃強化【大】,攻撃力UP【中】,高級耳栓,見切り+1,砥石使用高速化,アイテム使用強化,早食い,受け身