祭りの思い出 9

夕飯の買い出しを終えたマークの母が帰宅し、家の扉を開けた。
「おっと、おばちゃんこんちわっ、ちょっくらマークと出掛けてくるわ」
カイルがそう言いながら玄関から出てこようとしたその後ろから、マークが現れた。
「母さん、ちょっと狩りに行ってくるよ」
いつも入念に手入れはしているものの、一度も着たことのないその装備に身を包み、少し泣き腫らした顔ではあったが、その目はまっすぐに向いていた。
「マーク、ちょっと待ちなさい!」
母は台所の隅をゴソゴソと何かを取り出してマークへと手渡した。
クーラーミートGだった。
「カイルの分もあるから、仲良く分けて食べなさい」
母は数日前にヴォルガノス亜種の噂を聞いてから、いつでも持参できるように毎晩、特製のクーラーミートをこしらえていたのだった。
「それと、これは父さんからよ」
母は秘薬の入った小瓶を二つ、マークへ渡した。
少し驚いたマークだったが、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、母さん・・・、じゃ行ってくる!」
母は、マークとカイルの姿が見えなくなるまで、玄関で見送った。
メゼポルタのクエスト受付でマークとカイルが受注しようとした時、受付嬢がカイルに気が付いた。
「カイルさん、先程からマスターが探してましたよ?」
「えっ?・・・、ちょっと行ってくるから、マーク、受注して待っててくれ」
と言うと、カイルは足早にギルドへ消えた。
『ヴォルガノス亜種の狩猟、依頼者ギルドマスター』
マークは、依頼内容をじっくりと何度も読み、手続きを済ませてカイルを待った。
カイルはすぐに戻ってきた。
「わりーわりー、さぁ行こうか!」
カイルも手続きを済ませ、火山へと出発した。
浜辺近くのベースキャンプで、ポーチの中を再確認する。
大丈夫、忘れ物は無い。
マークは目をつぶり、一呼吸した。
すると、すぐ傍で「今日もイったるでー!!」と雄叫びをあげながら、空に向かって龍撃砲を一発放つカイルがいた。
「ははっ、相変わらずなんだな、カイルは」
「コレをやらないと調子狂うんだよな」
カイルは、迷いの無いマークの顔付きを確認して安心した。
「さぁ、行こうか!!」
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ベースキャンプを後にした二人は、溶岩地帯の手前で少し突き出た岩場に腰掛け、母からもらったクーラーミートGを食べた。
ヒンヤリしてて、実に美味しかった。
マークは、一口一口丁寧に味を噛みしめながら食べた。
なんだかスタミナも抜群にみなぎるようだった。
カイルも、旨い旨いと連呼しながらペロリとたいらげてしまった。
そして、秘薬の小瓶を一気に飲み干した。
マークは意を決したように頷くと、岩場を後にし、目的の溶岩地帯へと二人は突入した。
相変わらず、蒸し暑さと硫黄の匂いが鼻をつく。
わずかの草と実がなるだけで、ほとんどの植物は熱で枯れたのか、岩場と溶岩しかなく、虫一匹すらもそこに存在していなかった。
溶岩が流れる一帯の遠くに何か動く背ビレのようなものが見えた。
その溶岩の主は、溶岩の中からひょこっと顔を出してこちらを見ている。
「うわっ、でけーなー、これ金冠サイズじゃねえか?」
はしゃぐカイルと打って変わって、マークは久々に見たルーの姿に言葉を失った。
(あれ?まただれかきた)
(・・・まあくん?まあくんだ!まあくん、おっきくなったねー、ぼくもこんなにおっきくなったよー!!)
溶岩の主は、溶岩の中で大きくジャンプをした。
溶岩の塊が二人の傍まで飛び散った。
「あっぶねー」
カイルは咄嗟に横っ飛びをしてその塊を避けた。
マークは、運良くその塊にはぶつからなかったものの、ルーの姿を黙って見ていた。
「ルー・・・」