祭りの思い出 7

自宅へと帰ってきたマークは、ただならぬ様子で帰宅した息子に気付いた母の問いかけに気付いていないのか、無言のまま自室へと消えた。
「ちょっと、兄さん、何かあったの?」
マークの母は一緒だった叔父へと聞いた。
居間では、マークの父が釣り道具の手入れをしていたが、こちらには無関心のようだった。
叔父は、小さな溜息をついてから言った。
「お前達、いつも喧嘩している暇があるなら、マークの事を少しは気にかけたらどうだ?あの子が学校でどんな思いをしているか、あの子がいつも何を思っているか、もう少しあの子の事を考えてやってくれ」
両親は互いの顔を見つめた。
叔父は、先の出来事を全て両親へと話した。
「あの子は・・・、マークはこの先、厳しい選択をしなくてはならない時がくるかもしれない。その時は・・・、どちらにせよ、温かく見守ってやってくれ」
両手で口を塞ぎ涙ぐむ母と、下を向いたままの父を残して叔父は静かに出て行った。
マークは一週間、学校を休んだ。
事情を聞いていた両親は、マークを責めたりせずにそっと見守ることにした。
マークはこの一週間、自分の部屋に引き籠った。
自分のした事で、原種が絶滅してしまうかもしれない。
いや、火山一帯の生態系そのものが大きく崩れてしまうかもしれない。
万が一・・・万が一、そうなった時は、討伐・・・、討伐・・・、討伐。
友達だったルーを果たして自分は討伐できるのか?
それとも自分じゃなく、他の誰かに討伐してもらった方が・・・。
色々と考えたが、答えは出ない。
・・・答えは出ないが、最悪の事態だけは考えた方が良い。
一週間が過ぎ、マークは学校へと行った。
いつもと同じ学校、いつもと同じ教室、いつもと同じクラスメイト、いつもと同じ勉強、いつもと同じ演習、いつもと同じ休み時間。
違うのは自分だけだった。
いつにも増してよく勉強し、演習では更に狩りの腕を上げるべく、難しいレベルのクエストにも率先して参加した。
もちろん、ソロで。
あれから、マークに対してカイルは何も絡んでこようとはしなかった。
演習では、各種族に対する狩猟の得点が付けられ、総合点が決まる。
鳥竜種、牙獣種、甲殻種、飛竜種・・・とほぼ全ての種族の得点は、満点だった。
只の一つ魚竜種を除いては。
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無事に学校を卒業し、数年が経った。
今では立派なハンターとして、マークは家計を支えていた。
大人になった今でも、ソロで狩猟している為、クエスト達成には少々時間がかかるものの、失敗した事は今までに一度も無かった。
マークは今までに狩猟した報酬で、強力な武器や防具を生産した。
その中でも最も強力とされる武器と防具を、いつしか使う日が来るであろう事を考え、毎日の手入れは欠かさなかった。
ある晴れた日の午後、マークの家に体格の良い男性が訪ねて来た。
両親が不在だったので、マークが出迎えた。
「よぉ、元気か?」
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蒸し暑さと硫黄の匂いが激しい火山の溶岩地帯。
溶岩の中で何かの背ビレがすーっと動いた。
そのエリアの入口から4人のハンター達がやって来る。
溶岩の主は、ひょこっと顔を出してキョロキョロと辺りを見渡した。
そしてハンターの姿を見付けた。
(あれ?まあくん?)
(おーい、ぼくはここだよー!)
その主は、勢いよく溶岩の水面でジャンプをし、溶岩を陸地へと巻き散らかした。