祭りの思い出 5

マークは自宅に帰ってきた。
自分の部屋に入ると、辺り一面に濁った湯が冷めて凝固したのか、黒い塊が散乱していた。
「・・・なんだよコレ・・・?!」
よく見渡すと、部屋の隅に置いてあった虫カゴが倒れて、その傍にぐったりとしたルーが横たわっていた。
慌ててルーを拾い、鍋の中に入れた。
ルーの身体は少し冷めていた。
ぐつぐつと煮立った鍋の中で、しばらくルーは動かなかった。
ルーが湯を巻き散らかしたおかげで、鍋の中の湯が減っていた。
急いで湯を沸かし、鍋の中へ注ぎ足した。
「ルー!ルー!!」
大声で呼び続けると、ルーはピクっと動き、鍋の中を泳ぎだした。
マークはホッとした。
「ダメじゃないか、鍋から出たら・・・」
ルーはマークが帰ってきた事に喜び、いつものように湯を飛び跳ねた。
飛び散る湯の一滴がマークの頬に当たった。
熱かった。
頬が焼けるように熱かった。
泣いた時に、防具を着たまま頬を伝う涙を拭ったので、その時に腕を保護していた鱗で頬を少し擦りむいていたのだ。
「なんでルーまで・・・」
マークは、熱くてヒリヒリした頬に手を当てながら、悲しいやら悔しいやら色々な感情が一気に込み上げてきた。
マークは、ルーの入った鍋に蓋をすると、その鍋を持って部屋を飛び出した。
そこはさっきまで演習で来ていた火山地帯だった。
クーラードリンクも飲まずに溶岩が流れる付近へ来た為、汗がどっぷりと噴出してくる。
溶岩が流れる傍まで来ると、マークは鍋の蓋をはずした。
ルーは懐かしい硫黄の香りと心地よい蒸し暑さに、湯から顔を出してキョロキョロと辺りを見渡した。
遠い故郷に似た光景だった。
嬉しいのか、ルーは湯から飛び出して、熱くなった地面を溶岩に向かって這いずりだした。
この方がルーにとってもボクにとっても幸せなんだ。
マークは溶岩へと向かうルーを見つめながらそう思った。
ルーは、ジャポンと飛沫をあげて溶岩の中へと飛び込んだ。
そこは今までの鍋の中とは全然違う天然の溶岩だった。
水を得た魚のように、天然の溶岩の中を気持ちよさそうにルーは沖へ向かって泳いだ。
(わーい、わーい)
何度か飛び跳ねると、今度は岸へ向かって泳いできた。
そして溶岩から顔をひょこっと出した。
(あれ、まあくん?)