祭りの思い出 4

ヴォルガノスのルーを預かって、はや一週間が過ぎた。
あれからギルドからの連絡はまだ無い。
ルーは、狭い鍋の中で一日を過ごす。
鍋の外の世界は、湯から顔を出さないと何も見えない。
マークが学校へ行ってしまうと、この鍋、いや、この部屋にはルーただ一匹だった。
しーんと静まり返った部屋の中で、ルーは退屈していた。
暇つぶしに、湯から飛び跳ねては辺りへ湯を巻き散らかしたりしていた。
湯から顔を出し、じーっと部屋の中を見渡す。
すると、部屋の隅に、マークがルーへのおやつとして捕まえていた虫が入った虫カゴを見つけた。
虫カゴの中では、虫が一匹動いていた。
(なんだろうあれ?)
その頃、学校では近くの火山地帯で自由演習をしていた。
浜辺をベースキャンプとし、1パーティーにつき燃石炭5個の納品がマストとされ、途中での小型モンスターの狩りは自由とされていた。
燃石炭は、貴重な燃料とされている為、採取した分は全てギルドに納品されるが、紅蓮石等は持ち帰りが自由とされていた為、マークはルーの為にいくつか紅蓮石を持ち帰りたかった。
マークは支給品のボロピッケルを受取り、一人で採取に向かった。
燃石炭は十分過ぎる程採れたが、紅蓮石が一向に採れない。
とうとう最後のボロピッケルが壊れてしまった。
クーラードリンクも切れたし、今日はもう納品して帰ろう、そう思った時にカイルがこちらに向かって歩いてきた。
一人だった。
いつもは必ず4人パーティーなのに、今日に限ってカイルは一人だった。
「よおっ!石採れたか?」
マークは無視して通り過ぎようとした。
「おい待てよっ!」
カイルは通り過ぎようとしたマークの腕を掴んだ。
カイルはマークとは違って体格が大きく、がっしりと掴んだ手をマークを振りほどけなかった。
「なっ、なんだよ?!」
「人が話掛けてるのに、無視するんじゃねえよ!」
「ボクのことは放っておいてくれ」
「・・・お前さぁ、今日みたいなクエはソロでもいいけど、討伐クエん時ぐらい仲間がいないと万が一の時、お前を助けるヤツは誰もいないんだぞ?」
「わ、分かってるよ、そんな事」
「・・・明日の討伐クエ、俺と組まねえか?ガンランスNo.1の俺様とランスNo.1のお前が組めば・・・」
「どうしてボクのこと嫌ってるカイルがボクと組むのさ?!」
マークはカイルの言葉を遮った。
「・・・誰がいつお前のこと嫌いだって言った?」
「みんな嫌ってるじゃないか!ボクのことなんて・・・ボクだって嫌いだ!放っておいてくれよ!!」
マークはカイルの腕を思い切り振り切って、ベースキャンプへと走って行った。
きっとカイルはボクと組んで、狩りの最中ボクに何か嫌がらせをするに決まってる。
そんな目に合うなら、最初からパーティーなんて組みたくない。
マークは走りながら泣いた。