祭りの思い出 3

翌朝、叔父は例のヴォルガノスの件を相談しにギルドへと向かった。
ギルドの出した答えは、まずは出生地を探し、その地のギルドに話をして、どのような手段で誰がヴォルガノスを運搬するかを決めるので、それまでヴォルガノスを預かってて欲しいとの事だった。
少年の家では、両親は最初に驚いたものの、数日間預かるだけと聞いて安心したのか、ヴォルガノスの世話を少年へ託した。
少年は自分の部屋の机の上に、煉瓦を敷き詰めその上に鍋を置いた。
しばらく鍋を眺めていると、湯の中からヴォルガノスがひょこっと顔を出した。
「ボクはマーク。しばらくおまえの面倒を見ることになったんだ、よろしくな」
ヴォルガノスはじーっとマークの顔を見つめた。
(・・・まあく?・・・まあくん?まあくん!!)
ヴォルガノスは嬉しそうに濁った湯の中で飛び跳ねた。
「コラコラっ、跳ねたら熱いよ!」
湯のしぶきが辺りに飛び散る。
「そうだ!短い間だけど、おまえにも名前を付けなきゃ・・・」
ヴォルガノスかぁ、ヴォルガノス・・・ヴォル・・・
そうだ!ヴォルガノスのルーにしよう。
「よしっ、おまえは今日からルーだ!」
(るー?ぼくのなまえ、るー?)
ルーは、喜んで狭い鍋の中をぐるぐると泳いだ。
叔父に言われた事は、五つ。
1日おきに湯を取替えること。
紅蓮石と燃石炭は、3日に一回取り替えること。
エサは、湯の中に入れずに直接食べさせること。
何を食べるのか、ヴォルガノスの生態はまだはっきりとされてなく、まだ稚魚ということもある為、一口大に切った肉を1日に3回食べさせること。
マークは、朝起きてルーに食事をさせ、学校から帰ってきて食事をさせながら今日一日の出来事を話して聞かせ、夜寝る前に食事をさせるという毎日を繰り返した。
「ルーは、ボクの友達だよ」
(とも・・だち?)
「学校は・・・嫌いじゃないけど、休み時間は嫌いなんだ」
マークは、勉強や狩りの演習は好きだったが、同じクラスに友達と呼べる人がいなかった。
まわりの生徒もあまり話たがらないマークを、空気のような存在にしか思っていない者がほとんどだった。
「それでね、よくボクにイジワルしてくるヤツがいるんだけど、ソイツの事は・・・嫌いなんだ」
狩りの演習は、基礎は去年で終わったので、今年からは応用として、各自好きな武器を使うことができた。
マークは、ランスを選択した。
モンスターの攻撃を盾でしっかりとガードし、狙った部位への攻撃をはずさない、マークはクラスの中でランスの使い方が一番上手だった。
そんなマークに嫉妬したのか、自由演習の時間になると、必ずといっていいほど、何かと同じクラスのカイルがマークに絡んでくる。
カイルは、自由演習開始の合図と同時に、
「今日も俺のロマン砲をぶっ放すゼーーっ!!」
と叫んで、空に向かって竜撃砲を一発放ってから目的地へ走り去る。
クラスでガンランスを選択しているのは、カイル一人だった。
他の生徒は、基礎演習時にガンランスの砲撃で味方の生徒を巻き込んだりと、なかなか上手に使いこなすことができず、ガンランスを選択する者はいなかった。
が、カイルだけは一度たりとも生徒を巻き込んで砲撃を放つことなく、ガンランスの扱いに長けていた。
また、少々口は悪いが、いつも陽気な性格からかクラスの人気者で、いつもカイルのまわりには人だかりができていた。
ある休み時間に、教室でマークが狩りの手引きを読んでいると、前の席にカイルがどっかりと座り、マークに言った。
「お前さー、いつまでソロで狩るつもりだよっ?」
自由演習は、各自が4人まで好きなパーティーを組むことができる。
もちろん、ソロでも可能だ。
マークはいつもソロで狩りをしている為、いつも討伐時間がかかってしまう。
「そ、そんなのカイルに関係ないじゃないか!放っといてくれよ!!」
マークは手引きを持って教室から出て行った。
カイルは、やれやれといった感じで溜息を付き、クラスの友達の輪の中へ戻った。
「カイル、なんでマークなんか相手にするんだよ?」
「アイツのことは放っておけばいいのさ」
まわりは次々に、マークの事は放っておけと言わんばかりに口を開く。
「・・・まぁな」
カイルはマークが出ていった教室の扉を見つめた。