祭りの思い出 11

溶岩地帯へ足を踏み入れてから、かなりの時が過ぎた。
必死なルーとカイルを見ている内に、マークは思った。
自分のしたことは何だったのか?
自分は何を決意したのか?
自分は何をしにここへ来たのか?
ルーは何を思っているのか?
カイルは何を思っているのか?
マークは、ふとポーチを見た。
数年前のあの日から両親は変わった。
今まで自分に無関心だった父は、何かと言葉を交わすようになった。
口を開けば小言ばかりだった母は、時には厳しくもあるが優しくなった。
父の思い。母の思い。
そして自分の思い・・・。
マークは盾と武器を手に地面から腰を上げた。
この厳しい蒸し暑さの中で激しい攻防が続く中、カイルの体力はかなり消耗していた。
武器と盾を握るその手は汗が滲んでいた。
ルーへ攻撃をしたその瞬間、汗で盾が手から滑り落ちた。
ルーは自分に突き刺さったその武器を振り払おうと、その巨体をうならせた。
落ちた盾を拾おうにも、もう間に合わない。
もはやここまでかとカイルは目をつむった。
ガツッ!!
鈍い音が響いたが、自分の体は無事だった。
目を開けると、目の前には盾でしっかりとガードしているマークの姿があった。
「ごめん、カイル」
マークは振り返らずに真っ直ぐにルーを顔を向けたまま言った。
安堵の気持ちと、マークがここに立っている事実にカイルはフッと鼻で笑った。
「おせーよっ」
消耗しきっているのはカイルだけではなかった。
ルーは、ヒレ部分の溶岩が取れているのか鱗が露わになり、その体の艶までをも失っていた。
カイルはすぐさま立ち上がると、ポーチから何かを取り出した。
シビレ罠だった。
ルーの動きが少し鈍った時、その足元へと罠を設置した。
意を決したマークは、渾身の力でルーへ攻撃をしようとしたその瞬間、カイルは捕獲玉を数発ルーへと当てた。
(まあくん・・・まあ・・・く・・・)
ルーはその巨体を静かに地面へ下ろし、麻酔によって眠ってしまった。
「えっ?」
マークは驚いた顔でカイルを見た。
カイルはふふんっと何故か得意顔で言った。
「実はよ、出発する前にじいちゃんから、ルーを故郷へ戻すから捕獲してこいって言われたんだよな」
マークはカイルが何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。
今でも生態に謎の多いヴォルガノス亜種の研究も兼ねて、ルーを生体のまま捕獲し、異国の故郷へ戻す手配をしていた。
ルーを討伐以外の形でどうにかできないか、ギルドマスターに何度も掛け合ったのはカイルだった。
やっと事の事態を把握できたマークは、どうやってこの巨体のルーを異国まで運ぶのかが不思議だった。
「なんか、キャラバンの奴らに手伝わせるって言ってたゼ」
キャラバンで働く労働者の多くは、異国に憧れ、視察だ何だと理由を付けては異国に赴くのが好きだった。
「ま、あいつらも丁度いい理由ができたんじゃないのか」
「一人で考えたって頭でっかちになるだけさ。でも二人三人といれば何かいい考えが浮かぶと思わないか?」
マークは、カイルの言葉に唇を噛みしめ、ルーを見つめた。
何はともあれ殺さずに済んだと安堵の気持ちで、涙ながらにルーを強く抱きしめた。
「カイル・・・ルーを異国に連れて行く時、僕も一緒に行っていいかな?」
マークはルーを抱きしめたまま言った。
「もちろん!ま、その時は俺も一緒だゼっ!!」
カイルはそう言うと、へとへとになった身体をその巨体へもたれかけた。
溶岩流れる流域の水平線に、まさしく溶岩色に染まった太陽が眩しく輝いていた。
Fin