溶岩地帯へ足を踏み入れてから、かなりの時が過ぎた。
必死なルーとカイルを見ている内に、マークは思った。
自分のしたことは何だったのか?
自分は何を決意したのか?
自分は何をしにここへ来たのか?
ルーは何を思っているのか?
カイルは何を思っているのか?
マークは、ふとポーチを見た。
数年前のあの日から両親は変わった。
今まで自分に無関心だった父は、何かと言葉を交わすようになった。
口を開けば小言ばかりだった母は、時には厳しくもあるが優しくなった。
父の思い。母の思い。
そして自分の思い・・・。
マークは盾と武器を手に地面から腰を上げた。
この厳しい蒸し暑さの中で激しい攻防が続く中、カイルの体力はかなり消耗していた。
武器と盾を握るその手は汗が滲んでいた。
ルーへ攻撃をしたその瞬間、汗で盾が手から滑り落ちた。
ルーは自分に突き刺さったその武器を振り払おうと、その巨体をうならせた。
落ちた盾を拾おうにも、もう間に合わない。
もはやここまでかとカイルは目をつむった。
ガツッ!!
鈍い音が響いたが、自分の体は無事だった。
目を開けると、目の前には盾でしっかりとガードしているマークの姿があった。
「ごめん、カイル」
マークは振り返らずに真っ直ぐにルーを顔を向けたまま言った。
安堵の気持ちと、マークがここに立っている事実にカイルはフッと鼻で笑った。
「おせーよっ」
消耗しきっているのはカイルだけではなかった。
ルーは、ヒレ部分の溶岩が取れているのか鱗が露わになり、その体の艶までをも失っていた。
カイルはすぐさま立ち上がると、ポーチから何かを取り出した。
シビレ罠だった。
ルーの動きが少し鈍った時、その足元へと罠を設置した。
意を決したマークは、渾身の力でルーへ攻撃をしようとしたその瞬間、カイルは捕獲玉を数発ルーへと当てた。
(まあくん・・・まあ・・・く・・・)
ルーはその巨体を静かに地面へ下ろし、麻酔によって眠ってしまった。
「えっ?」
マークは驚いた顔でカイルを見た。
カイルはふふんっと何故か得意顔で言った。
「実はよ、出発する前にじいちゃんから、ルーを故郷へ戻すから捕獲してこいって言われたんだよな」
マークはカイルが何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。
今でも生態に謎の多いヴォルガノス亜種の研究も兼ねて、ルーを生体のまま捕獲し、異国の故郷へ戻す手配をしていた。
ルーを討伐以外の形でどうにかできないか、ギルドマスターに何度も掛け合ったのはカイルだった。
やっと事の事態を把握できたマークは、どうやってこの巨体のルーを異国まで運ぶのかが不思議だった。
「なんか、キャラバンの奴らに手伝わせるって言ってたゼ」
キャラバンで働く労働者の多くは、異国に憧れ、視察だ何だと理由を付けては異国に赴くのが好きだった。
「ま、あいつらも丁度いい理由ができたんじゃないのか」
「一人で考えたって頭でっかちになるだけさ。でも二人三人といれば何かいい考えが浮かぶと思わないか?」
マークは、カイルの言葉に唇を噛みしめ、ルーを見つめた。
何はともあれ殺さずに済んだと安堵の気持ちで、涙ながらにルーを強く抱きしめた。
「カイル・・・ルーを異国に連れて行く時、僕も一緒に行っていいかな?」
マークはルーを抱きしめたまま言った。
「もちろん!ま、その時は俺も一緒だゼっ!!」
カイルはそう言うと、へとへとになった身体をその巨体へもたれかけた。
溶岩流れる流域の水平線に、まさしく溶岩色に染まった太陽が眩しく輝いていた。
Fin