序章 ③

タルタロスは自分の置かれている状況を宙を舞いながら理解し始めていた。
ドス。ゴロゴロゴロ。
鈍い音が響き渡る。
なんとか受身をとり、次の攻撃に備える。
まともに頭から落ちていたら次の一撃をまともに食らい命が危ぶまれるところだ。
不意の一撃をくらっても受身を取れるあたり、長年に渡る狩猟生活の賜物であろう。
しかし、さすがに無傷ではない。
肩は脱臼し、半身打撲状態である。
ゴキっ
タルタロスは脱臼した肩を元に戻すと、痛む肩には構わず大剣を構えた。
ディアブロスはUターンして来て、またタルタロスに襲いかかる。
ガン!!!
ガン!!!!
ガン!!!!!
タルタロスは大剣を横にしディアブロスの突進を受け止める。
ガードした衝撃は肩に伝わり、タルタロスの表情は苦悶に変わる
「くぅっ」
しかし、そうも言ってられない。
目の前の飛竜を倒さねば、家族が危ない。いや、このディアブロスが妻や娘の方を襲いかねない。
タルタロスは渾身の力を込めなぎ払う。
ズシャ!!
首に一撃を加える。
しかし、そのままディアブロスは回転し大きな尻尾がタルタロスに襲いかかる。
ドン
鈍い音がし、タルタロスは吹っ飛ばされる。
大剣のガードは間に合わず、まともにくらう。
まずい。これは時間がかかってしまう。。。タルタロスは考えていた。
どうすれば、この最悪な状況を打破できるのか。
しかし、考えど答えは出て来ない。
ふと、回りに目をやると二つの人影が見えた。
!?
よく見ると2人立っている。
100メートル程はなれた所から、タルタロスの方を見ていた。
そして、こちらに歩いてきているようだった。
・・・助けを頼むしかない。
タルタロスは考えた。
どのような連中かもわからない。
もしかしたら、助けてくれないかもしれないし、助けてくれたとしても、あとで膨大な報酬を求められるかもしれない。
しかし、もう考える余裕すら彼には無かった。
だんだん近づいてきた人影は、
ひとりは、青年のようだった。青い布のような防具であるリアン装備に身を包み精悍な顔つきをしている。
ひとりは、少年だった。タルタロスが知らない装備をしていて青年の腰くらいまでしか身長がなかった。
そして2人とも、文字らしきものが光浮かぶ大剣を背負っていた。
見たことも無い大剣であった
ディアブロスを交戦中のタルタロスが2人に声をかけようとした時、少年が駈け寄ってきた。
青年は10メートル位はなれた所で止まって、こちらを見ている。
少年はタルタロスに声をかける。
「おっさん、助けてやる。 近くにいてもいいけど邪魔すんなよ。」
タルタロスは目を丸くした。
こちらから頼む前に、どうやら助けてくれるらしい。
しかし、それと同時に青年ではなく少年の方だけだった事に不安を覚えたのも確かだった。
「ありがたい。助かる。しかし大丈夫なのか?」
聞かずにいられなかった。どんな答えが返ってきても、すがるしかないのだが。
「ああw まぁ見てろって。」
少年は舌なめずりをして、そう言うと角竜に向かっていく。
  ◆◆◆
少年は大剣の扱いに長けていた
もはや、彼の身長と同等くらいあるその大剣からを、体のバネや遠心力を
うまく使い、いとも簡単そうに軽々と大剣を振り回していた。
少年の持つ大剣は、見た事もない形状だった。
「おっさん、このエピタフがそんなに珍しいかい?」
タルタロスはその大剣の持つ神妙な雰囲気にのまれていた。
「まぁ無理もないか。この俺の相棒、エピタフプレートは
 世界に一振りしかない、呼応する者に力を与える剣さ。」
「まぁ見てな」
言い終わると同時に、少年は目に力を入れているようであった。
すると少年の瞳は黒から鮮やかな黄色に変わり、しばらく目の前のディアブロスを見つめ続けた。
「へー」
少年が感心した目でタルタロスを見る。
「おっさん、いい線いってたよ。あの角竜、もうよわってるみたいだ」
そう言うと、変わった構え方で大剣を抜刀したまま、ディアブロス目掛け正面から、突っ込んでいった。
その速さは、とても抜刀している状態とは思えず、普通に走っているのと、なんら変わりはないように見える。
ディアブロスも少年を確認すると、頭の角で少年を串刺しにしようとする。
少年は、それを交わすと軽やかに大剣を振り上げる。
少年が振り上げた大剣はディアブロスの頭を捉えている
ザシュ。
鈍い音が聞こえる。
ディアブロスの頭に的確に一撃を加える。
ディアブロスは怯み、一瞬ではあったがよろめいた。
少年は、それを見逃さない。
足元に転がり込むと、腹に向かって全力で切り上げる。
そのまま、刃を水平にし、足を切り払う。
ディアブロスの巨躯は砂漠に横たわった。
少年は横になったディアブロスの頭に渾身の力を込めた攻撃を加えると、さらに何度も切りつけていく。
ディアブロスは叫び声をあげる。
角が2本とも、ぽっきり折れていた。
しばらく少年の無駄のない動きに見入っていたタルタロスであったが、「はっ。」と我に返り、ディアブロスに向かっていく。
タルタロスも幾度となく死線を経験してきた狩人。
ディアブロスの注意を引き付け、カウンターで攻撃しディアブロスをひるませていく。
少年も相変わらず、的確に攻撃をあたえていき、
やがて、いや、少年が現れた数分後、
ディアブロスは、息絶えた。
  ◆◆◆
そのむこうで、
母と娘は、いまだドスガレオスと対峙中であった
(どうやら無事のようだな)
かなり消耗しているようではあるが、
二人に外傷は見られなかった。
タルタロスは安堵していた。
(早く助けにいかなければ)
タルタロス自身かなり消耗はしているが、そうも言っていられない。
足早に2人の元に向かおうとした、まさにその時。
次の瞬間、
娘と妻の体が空中に放り出された。
ダイミョウザザミ。
盾蟹と呼ばれる、そのモンスターは
背中にモノブロスの頭蓋を背負い、地中から頭上のハンターを襲う習性がある。
襲われたハンターは空中に放り出され地面に叩きつけられる。
その攻撃を受けた者は、とてもではないが無傷ではいられない。
タルタロスの頭の中はまっ白になっていた。
いや、普通であれば予想できたはずであった。
だが、
連続するトラブルにより、本来の目標物の事を完全に忘れていた。
たくさんのハンターが犠牲になったのであろう。
背中に背負うモノブロスの頭蓋は赤く染まっていた。
まるで赤いモノブロスのようであった。