慢心

ガラガラガラガラッ
ドサッ
「いったーーいっ!!もうちょっと静かに降ろしてよー、こっちは怪我してんだかんねっ!」
狩りの途中、モンスターの攻撃をまとにくらって動けなくなった女ハンターは、荷車救急猫隊にキャンプ地へと運ばれたのだった。
ガラガラガラガラ…
女ハンターを乗せてきた荷車が帰っていく。
(まったくもうっ、髪がぐちゃぐちゃじゃないっ!何あのピンクゴリラ、アタシに向かって屁かますなんてっ!匂い取れたかなぁー?)
くんくんと自分の装備の匂いを確認する女ハンター。
すると視界に一匹の救急猫が何やらニヤニヤしながら立っていた。
「なっ、なんなのよアンタ!帰ったんじゃなかったの?」
『帰ったのは後輩ニャ』
「…で?アンタはそこで何してるワケ?」
女ハンターに質問された先輩猫は待ってましたとばかりに、
『キミに見せたいモノがあるのニャ』
「な、なんなのよっ?!」
女ハンターは身構えた。
(例え相手が猫だからって容赦しないんだからねっ)
先輩猫はコホンと一つ咳払いをすると、右腕をくの字に曲げ、何やらリキんでいる表情が伺える。
女ハンターは、先輩猫が何をしているのかが理解できずにいた。
「あの~っ、失礼ですが…何してんのアンタ?」
『あー、全然ダメニャ、見て分かんないかニャー、我ながらホレボレする素晴らしき筋肉だニャ』
よく見ると、先輩猫の力を込めているであろう右腕の二の腕部分にぽっこりと小さな山ができていた。
(それとアタシと何が関係してくるのよっ?)
女ハンターは、深い溜め息をついた。
『この五年間、一日も休まず、数多のハンターさん達を運んだおかげでこんなに筋肉が発達してしまったニャ。更にコレを活かすべく、来月にはロックラックへ筋肉留学することになったのニャ』
「…で?」
『それまでの一ヶ月間、後輩を立派な後継者になれるよう教育しなくてはいけないニャ』
「…はぁ」
『やはり教育実習は現場が一番ニャ』
「…左様で」
『実践でたたき込むには、未熟なハンターさんが必要ニャ』
「…なんか嫌な予感がするんですけどぉ~?」
『そこで白羽の矢をキミに決めたニャっ』
「あーやっぱり、そうなっちゃいますぅ~?」
先輩猫はアタシに、毎日最低でも5クエ(重たいクエは尚可)は回してもらわないと困る的な事を言ってきたけど、そんなのこっちも困るっつーの。
もう、アタシに死ねと言ってるよーなもんじゃない。
でもコイツ、なんだか面倒くさそうな性格してそーだから、適当に返事だけでもしとくか。
『筋肉入魂祭で優勝したアカツキには、キミもロックラックへハンター留学させてやるニャ、これから一ヶ月間やられっぱなしじゃハンターとして成長しないニャ』
あー、どこまで面倒臭い奴なのよ!!
そうこうしてる内に、クエスト達成のベルが鳴り響くのであった。