運命 後編

そう、キャラバンへ向かったはずの主人だった。
既に通り過ぎて行った荷車を追い掛けるべく来た道を引き返し、大声を張り上げて荷車を引いてるアイルー達を呼び止め、事情を聞く。
どうやら向かったキャラバンが満員で、仕方なく仲間達と森丘へリオレイアを狩りに行き事故に合ったらしく、残った仲間達はまだリオレイアを狩り続けているらしい。
あぁ、ダメ。
そのリオレイアは背中にいるこの子の母親なんだから。
しかし、危篤状態の主人も放ってはおけない。
苦渋の選択を強いられたが、とにかく今は荷車と共に病院へ向かう。
病院へたどり着いた頃、息も絶え絶えの主人が何かを言おうとしている。
口元に耳を近付けると、
「…た…卵…ぐっ」
そう言い残すと主人はそのまま息を引き取ってしまった。
卵が何だって言うの?
悲しみにくれるキエルであったが、その時、背中から雛の鳴き声が聞こえた。
そうだ、この子だけでも親元に返してあげないと。
涙で濡れた頬を拭い、急いで森丘を目指す。
急がなければ、狩り仲間達に討伐させられてしまう。
それはなんとしても阻止せねばならない。
森丘に辿り着き、双眼鏡でリオレイアを探す。
いた。
洞窟の上を旋回している。
洞窟へ急ぎ、中へ入ると地上に降りたリオレイアと、それを取り囲むかのように仲間達が武器を構えている。
待ってーーーーっ!!
大きく張り上げた声も虚しく、一人の武器から激しい爆炎がリオレイアに向かって放出された。
爆炎を受けたリオレイアは、その巨体をドンッと地面に倒れこんでしまった。
急いでリオレイアのそばに駆け寄り、顔の前に卵ケースから取り出した雛を差し出す。
リオレイアは、しばらく我が子を見つめた後、キエルを目線を移し、何かを訴えかけるように数度瞬きをし、そしてゆっくりとその瞼を閉じた。
その様子を見ていた仲間達の内、最年長であろう男がキエルに近づいてきた。
「…キエルさん、ご主人の敵は無事討ちました。して、ご主人の容態はどうですか?」
呆然と雛を抱えるキエルは、無機質にその男に目をやると、主人が息を引き取った事、この雛の事を全て話した。
すると、仲間達の中で一番小柄な男がウッウッと嗚咽を漏らした。
「すんませんっ!!全部俺のせいです!」
ゆっくりとその小柄な男へ顔を向ける。
男は泣きじゃくりながら、事の経緯をキエルへ話した。
仲間達は洞窟の中へ入り、リオレイアが現れるのを待っていた。
待っている間、主人が卵を見付けたらしく、今、親であるリオレイアを狩るのは止めようと言い出した。
しかし、小柄な男が血気盛んに、どうせいつかは狩るのだから今狩っても問題は無いと言いだし、足元の卵を蹴り出した。
蹴った衝撃で卵は割れたが、小柄な男は残った卵も割り出した。
それを止めようと主人が小柄な男を突き飛ばした時、リオレイアが洞窟の上空から降り立った。
主人の足元に散らばる卵の破片を見付けるや否やリオレイアは主人に突進した。
卵に気を取られていた主人は、振り返るのが一時遅すぎて突進を避ける間もなく勢い良く突き飛ばされ、洞窟の壁に全身を叩き打ち、そのまま下へ崩れ落ちていった。
全て聞き終えたキエルは、ふっ、主人らしいわねと笑みを浮かべた。
最年長の男が、キエルへ話し掛ける。
「その雛はどうするつもりですか?まさかキエルさん、育てるつもりではありませんよね?仮にも肉食ですし、成長したら…」
キエルは男へ向かって、皆まで言うなと手の平を見せた。
残された家族同士…なんて傷の舐め合いじゃないけど、この雛の運命は私達が今どうのと決め付けるのはどうかと思う。
このまま巣に置いて行けば、ランポス達の餌食になるのは目に見える。
自然の摂理と言えばそれまでかもしれないが、この状況を作り出したのは私の迂闊な行動のせいでもある。
かと言って、一生面倒を見れる訳でもない。
独り立ちできる迄は面倒を見るが、それからはこの子が自分の運命を決めるべきだ。
例え将来どこかのハンターに狩られるとしても…
とりあえず、この雛は持ち帰って子供とどうするか相談するわと男達に言い放ち、キエルはその場を後にした。
本当にこれでいいのだろうか?
とそこへ小柄な男が追い掛けて来た。
ハァハァと息を切らしながらもその男は、
「キエルさん、この先何か困った事があればなんでも協力しますんで、なんでも言って下さいっ!!」
キエルは笑みを浮かべ、
振り返らずに一言「ありがとう」と右腕を天高らかに振り上げた。