試されし道 ◇墜の頃◇

「んー、あっ、なんか下りれそうだよ?ここ」
岩のあった場所に近づいた妹は下を見下ろした。
「ちょっと待て!今地図見るからまだ下りるなよ!」
そう言いながら兄はポーチから急いで地図を取り出し、現在地を確認した。
が、岩があった場所から先の部分は何も存在していないかのようだった。
(地図に載っていないということは、この先はまだ誰も行ったことが無いということか?そんな危険なエリアに立ち入ったら…)
と、兄が地図を見ながら考え込んでいた時、崖下を覗き込む妹の背後から、倒したはずのギアノスが襲い掛かる。
「キャーーーッ!!」
妹は、ギアノスが飛び掛かった衝撃で、ギアノスもろとも岩のあった場所から向こう側へと落ちていってしまった。
「マリーーー!!」
兄は地図を放り出し、妹が元いた場所へ駆け付け、落ちていった先に向かって妹の名を叫び続ける。
「マリーっ、マリーっ、返事しろーっ!!」
見下ろすと、かなり下にはどうやら広いエリアが存在するようで、妹の姿と一緒に落ちたギアノスが横たわっているのが辛うじて見えた。
妹は落下の衝撃で気を失っているのか、微動だにしなかった。
一方、ギアノスはしばらくして気が付いたようで、ピョンと跳ね起きると、ギアノス自身初めて目にする風景に辺りをキョロキョロと警戒している。
まずい、いくらギアノス一匹とは言え気を失った妹が襲われたら大変な事になってしまう。
そこには下に降りられるような梯子やましては階段なんて都合が良い物も無かった。
そうだ!
少し先に行ったところに、上に登るのに使用されるツタがあったじゃないか!
あれを切ってくれば…
いや、だめだ。
あれだと長さが全然足りない。
ギアノスが妹に気が付く前になんとかしなくては…。
まずは妹を起こすのが先だ。
「マリーっ!マリーっ!起きるんだーっ!!」
兄は妹の名を呼び続けた。
上から聞こえてくる声に先に反応したのはギアノスの方だった。
声のする上の方角を見るギアノス。
自分から遠く離れた位置にいる兄を確認するも、そこへ辿り着くすべはない。
兄に興味を失ったギアノスは、回りを見渡した。
少し離れた所に妹が倒れているのがギアノスの視界に入った。
首を傾げて妹の様子を伺うギアノス。
動く気配が無いと悟ると、キシャーっと軽く声をあげ、妹のそばに近づいた。
ギアノスが妹に近づくのが見えた兄は、
「マリーっ!マリーっ!早く起きろーっ!!マリーーーっ!!」
と更に声を張り上げて叫んだ。
「…う……うっ…」
遠くから自分を呼ぶ声が微かに耳の奥に響いてきた妹は、薄く瞼を開けた。
見慣れない景色が目に入り込んできたが、目の前に迫ってきたギアノスの姿を認識した妹は、はっと立ち上がろうとした。
が、落下した時の衝撃でどうやら足を挫いてしまったようだった。
「…くっ……」
その場に座り込む妹は、目の前で軽く威嚇の声を上げるギアノスに抵抗するべく、背負っていた双剣を取り出そうとした。
「…ない?!」
背中にあったはずの双剣は、落下した時に妹と少し離れた場所へ落ちていた。
ギアノスを一睨みすると妹は、四つんばいで地面を這い、急いで剣のそばへ向かった。
弱者をなぶるような目付きでゆっくりと妹を追うギアノス。
もう少しで剣に右手が届ここうとした時、ギアノスは待ちきれんばかりに妹へ襲い掛かった。