試されし道 ◇意の頃◇

『及第点だな』
妹と二人、幸せだった日々の映像がプツンと途切れた。
兄は徐々に目を開け、ゆっくりとデュラガウアの顔を見た。
「…い、今何て…?!」
『及第点だと言ったのだ、二度同じ事を言わせるな』
「な、何なんだよ一体?」
『何、単なる気紛れだ』
「…気紛れ…って…、気紛れで妹を襲ったのか?!」
『急所は外したつもりだがな』
「二度目にはオレごと…直撃だったんだぞ?」
『二度手を緩める気は無いのでな』
「い、一体オレ達が何をしたって言うんだよ?!」
『…ヌシの意とやらを確かめたくなってな』
「オレの?…今までオマエになんて会った事もないのにか?!何が気持ちを確かめるだよ?オレの何を知ってるって言うんだよ!!」
兄は、今のデュラガウアに敵意が無い事が分かったが、妹が気を失う程のこの状況、ましてや、自分の心の奥にあるモノを見透かされたような気がして、剣を握る手に力が入る。
『くくっ、こちらは随分と前からヌシ等兄妹を知っているがな』
デュラガウアは、今いるこの場所を休息の場として以前から使用していた事、兄妹達が塔で仲睦まじく狩りを楽しんでいるのをこの場所から感じ取っていた事、ギルドが設置した岩を壊した事を説明した。
「ギルドが設置?…ギルドはこの場所の事を知っていたのか?」
『ああ、ヌシ等ハンターには知らせてなかったのか。でもまぁ、あの岩があったお陰で、こちらとしても小煩いハンターやら雑魚やらが現れなくて大層静かに休息する事ができたのだ。まぁなんだ、岩を壊した後に妹だけじゃなく、ギアノスのコワッパまで落ちてくるとはな』
くっくと笑うデュラガウアを余所に兄は、ギルドがこの場所を知っていながら地図に記載せず、寧ろこの先には何も無いと思わせるかのように岩で塞いでいた事を不信に思ったが、それは後回しにした。
『…小娘の方は、少々無鉄砲な所はあるが、狩りの腕が格段と上達してきたようだな。一方、ヌシは観察力や分析力は優れたモノを持っているようだが…』
「っ?!それ以上言うな!…それ以上は…自分でも…分かってる…」
デュラガウアの話す内容が図星だっただけに、これ以上惨めにはなりたくなかった。
兄と同期の連中は、とっくに上位クラスの依頼を受ける立場まで昇りつめている。
ましてや妹にまでも追い越されそうな勢いだ。
兄はちらっと背中にもたれかかっている妹の様子を伺う。
まだ気を失っている事を確かめると、デュラガウアへと向き合う。
「確かにオレは…妹を疎ましいと思った。同期だけでなく、妹にまで置いて行かれる気がしてならなかったんだ」
兄は緊張した肩を落とし、剣を握る手を少し緩めた。
「いや、違うんだ、・・妹達は何も悪くない。・・オレが勝手に妹達を妬んでいるだけなんだ。たった一人の妹を妬むだなんて・・」
兄は、相反する二つの思いに苦悩の表情を見せた。
『その剣は、ヌシにとって荷が重すぎるのやもしれぬな』
(?!)
緩めたはずの大剣を握るその手に思わず力が入る。
「オレにハンターを辞めろと言うのか?!」
ハンターになって三年、今更生き方を変えるだなんてそんな事はただの一度も考えた事が無かった。
「オ、オレは…今まで真面目にハンターの仕事をこなしてきたし、同期の連中のように腕の方はまだまだだけど、それなりにやってきたんだ」
『くっ、それなり…な。ヌシの言う“それなり”がヌシの限界か?』
兄はぐっと口をつぐみ、何も言葉が出なかった。