試されし道 ◇伽の頃◇

『この世界に生きとし生ける者は、皆、それぞれ得手不得手があると云う』
デュラガウアは、ある昔話を話し始めた。
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ある所に色々な種類のモンスター達が集まった。
目指す終着点はただ一つ、日暮れまでにそこへ向かって競争しようという事になった。
但し、そこに辿り着く迄の道筋は、それぞれ弊害があるものの自由に道を選択できる。
泳ぎが達者なガノトトスは滝のある川を進み、持久力に自信があるゲリョスは距離が遠くとも平坦な道を進み、力が自慢のラージャンは距離が短いが道のあちこちに大きな岩が塞いでいる道を進み、飛行能力に長けたリオレウスは激しい向い風が吹く空へと進んだ。
其々が各々の得手を理解し、其々が道を選択し、そして皆一斉に進み始めた。
やがて、途中で他の道の方が楽そうだと道を変えたが迫り来る弊害に対処できなかった者や、己の得手を履き違えた者、道を選択できずに進む事さえできない者、途中で道に迷い始める者達は皆、脱落していった。
日が暮れる頃、終着点にボロ雑巾のような姿になった最後の一匹が辿り着くと、迎え出た皆もまたボロ雑巾のように体中がボロボロだった。
そして、到着した順位等は関係なく皆互いに称えあったという。
賞賛に値したのは、自分達で決めた目標地点までに費やした時間ではなく、到着する事そのものにあった。
自らの得手不得手を理解した上で、自らが突き進んだ道を信じて進み続ける。
結果としていくら時間がかかってたとしても。
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『所詮、昔話だ。こちらには“不得手”というモノは生憎と存在しないがな。万が一、“不得手”が存在するとすれば…』
デュラガウアは、妹とその手に握られている剣をちらりと見た。
『ふふん、まぁよい。時として、ヌシの前には幾本の道が見えるのやら』
沈黙を守ったままデュラガウアの話を聞いていた兄は、静かに言葉を発した。
「オレには…いや、オレはまだそのスタート地点にも到達してないさ」
『剣を握る者やら、剣を握る者を支援する者、まぁヌシに相応しい“道”がその内見付かるといいがな』
デュラガウアは笑っているのだろうか、無数の鋭い歯が剥き出しで凶暴極まりないその風貌は、お世辞にも長時間凝視していられる姿ではなかった。
兄は色々な思いが交差するが、今ここで考えても仕方が無いと思い、取り敢えずは妹の手当が先だとデュラガウアに帰る道を尋ねた。
『さあな。恨むなら整備不備なギルドを恨む事だな』
「そっか…」
兄はふっと溜息を吐くと、妹をそっと抱きかかえる。
そして自分のポーチからモドリ玉を取り出した。
「…たぶんオレとはもう二度と会う事は無いと思うが、万が一この先…妹がここに来た時にはお手柔らかに頼むよ」
『ふん、二度目は無いと言ったはずだ。こちらも全力でいかせてもらう』
兄はモドリ玉を勢い良く地面へ投げ付けた。