寒の遺伝子

俺はウルクススだ。
しかし、俺の回りには誰一人として俺をウルクススだと認識してるヤツはいない。
何故なら、そうあれは4年前の出来事だった。
凍土で生まれてまだ間もない頃、親をハンターに狩られ、一匹で寒さと飢えに耐えていた時、ミニウサギか何かと勘違いしたお前は、俺を温かい懐へと大事にしまいこんで、お前の家に連れ帰ったんだ。
お前の嫁と幼いガキは、大喜びで俺を可愛がってくれたな。
しかし、どうだ?
俺を温かい家族へと迎え入れておきながら、3ヶ月が過ぎようとした頃、お前は遠い異国の地へと狩りに出掛けたまま、一度たりともこの家に戻ってこないじゃないか?!
お前が俺を拾い上げてから、既に4年の月日が経った。
今ではお前の歳を追い越してしまったぞ?
最初は小さなケージで飼われていた俺も、段々と成長するに従い、狭すぎるケージは撤去され、今ではこの家を自由に闊歩できる身分へとなった。
図体がデカくなっても、お前の嫁とガキは相変わらず俺を可愛がってくれるよ。
今では、ソファーにガキと肩を組んで一緒に座り、一緒にぽっぷこーんなる物を食べ、さっかーって言うらしい玉転がしを見ているよ。
しかしあれだな。
どの選手も俺に言わせれば、スライディングタックルがまだまだ甘いな。
そうそう、ぽっぷこーんも色々種類があって、俺はメープル味が大好きになったよ。
寝る時は、ガキと二段ベッドで上を取るか下を取るか、いつも早い者勝ちだ。
まぁ、いつも俺の勝ちだけどな。
なぁ、知ってるか?
兎って寂しいと死ぬらしいぜ?
俺は寂しくはないけどな。
お前の嫁と成長したガキが、今でも俺を愛してくれるからな。
でもな、いつになったら肝心のお前は帰ってくるんだよ?
暖かい家と、温かい人達・・・俺の体は温まっても、心が寒いんだよ!
・・・早く帰ってきてくれよ。
「ンキューッンキュゥーッ(おいっ!ちゃんねる戻せよ!くいずとか糞面白くねーんだよ!!)」
「えっ?アイス食べたいの?」
「プープープーッ(ちげーよっ!さっかーに戻せよ!!)」
「チョコミントでいいっ?」
「ブフーッ(糞がっ!!)」
お前のガキとは心が通じねぇ。
頼むから、早く帰ってきてくれよ・・・。