白銀に導かれて

今日もウルクススは、継母のベリオロスにこき使われ、義理の姉であるボルボロス亜種とアグナコトル亜種にいじめられていた。
「ほんと、役立たずね!」
継母はそう言うと、暖炉の灰を尻尾でウルクススに浴びせた。
真っ白だったウルクススは、かぶった灰で小汚い灰色に汚れてしまった。
クスクスと影でウルクススを笑っている義理姉達。
(ちっくしょー!今に見てなよ!アンタ達なんて・・・)
物思いながらも、ウルクススは一生懸命に家事をした。
ある日の晩、継母と義理姉達はパーティーに出掛け、この家にはウルクスス一匹だけとなった。
誰もいないのをいい事に、ウルクススはソファーに横になりながらお菓子をボリボリと食べていた。
とそこへ、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「誰よ?この至高タイムに!」
ウルクススが扉を開けると、そこには小さなバギィが一匹立っていた。
「コワッパが何の用よ?」
ウルクススの問いにバギィは答えた。
「ウルクスス様をパーティーへご招待しようと思いまして・・・」
「は?パーチー?何言ってんのコイツ?私なんてパーチーに行けるワケないじゃん!バカじゃないの?」
「いいえ、こちらに全てご用意しております」
そこには、立派なアプトノス車が用意してあった。
「何コレ?マジで?いいの?」
バギィは静かに頷くと、小汚かったウルクススを一瞬で真っ白にさせた。
ウルクススは、アプトノス車に揺られながら、目的の立派なお城へと辿り着いた。
「このマジックは、深夜0時に跡形も無く消えてしまいますので、それまでには必ずお戻り下さいませ」
「うんっ!オッケー!!」
ウルクススは、お城への階段を四足歩行ダッシュで駆け上がると、夢にまで見たお城のダンスパーティーへと参加した。
踊り疲れたウルクススは、お腹が空いてきた。
「こっちの方からなんかいい匂いがしてくる・・・」
匂いに釣られて辿り着いた場所は、調理室だった。
運良く、今は誰もいない。
ウルクススは、そこかしこにつまみ食いをして腹を満たした。
「ふーっ(ゲフっ」
とその時、深夜0時を知らせる鐘が鳴り始めた。
「やっばー!急がないとっ!!」
急いで調理室から出たウルクススは、廊下でドスンと誰かにぶつかった。
「ちょっとー、アンタどこ見・・・て・・・」
(ゲっ!ヤバっ!王子じゃん?!)
そこには、王子であるラギアクルスがぶつかった衝撃で廊下に倒れ込んでいた。
(ってそんな場合じゃないっ!急がないとっ!)
ウルクススは、倒れた王子を放っておき、アプトノス車へと急いだ。
「ふーっ、ギリギリセーフって感じぃ?」
一瞬で家の前に着いたウルクススは、元のみすぼらしく小汚い灰色の体へと戻ってしまい、アプトノス車も跡形も無く消えた。
「おしっ!アイツらはまだ帰ってないっと・・・」
ウルクススは、ソファーの近くにこぼれていた菓子を片付けた。
数日後、お城からの伝令で王子が誰かを探しているとの知らせが入った。
(やばっ!つまみ食いバレたかな?)
ウルクススは近くにあった薄汚いスカーフを頭に巻き、顔を見られないようにしながら家事に勤しんだ。
そして、とうとうこの家にも、王子が付き人を伴ってやってきた。
「これこれこういう者を探している」
付き人は、白くてモフモフした立派な前歯をしている者を探しているようだった。
「あらやだ、私の事かしら?」
継母が頬を赤らめて言うと、義理姉達も負けずと私よ私!と名乗りを上げた。
が、付き人が持参してきた歯型がくっきりと付いたリンゴと、継母や義理姉達の歯を見比べると、どうやらモンスター違いである事が分かった。
付き人が、住モンリストに目をやる。
「おや?この家にはまだ一匹おるようですな」
「えーっ?ウルクススの事ぉ?あの小娘は違うわよぉ」
義理姉が止めるのも聞かず、付き人はズカズカとウルクススの元へやってきた。
「どれ、歯を見せてごらんなさい」
ウルクススは、ひしっと唇を閉じたまま頑固として口を開けなかった。
付き人は、無理矢理ウルクススの口を開けさせようと、口の周りを抑え込んだ。
とその時、汚れの元であった灰のススが手に着いた付き人は、何かを思いついたように、ウルクススが被っていたスカーフを取り上げると、そのスカーフで顔と体のススを取り払った。
小汚い灰色だった体が、実は真っ白なモフモフだった事が分かると、必死に抵抗するウルクススをよそに、付き人は無理矢理ウルクススの口を開けさせた。
なんと!リンゴの歯型と一致した歯並び。
「王子!王子!いましたぞ!!」
ウルクススは観念した。
(つまみ食いは、きっと斬尾刑なんだ・・・って、アレ?私、切れる程尻尾長くないし?でも、きっと、きっと・・・ブルブル)
「おぅ!まさしく我が愛しの姫だ!!」
王子は、ウルクススに抱きついた。
「このモフモフ感♪これこれっ♪ほらっ、ボクって鱗じゃん?だからモフモフ姫が好きなんだぁ♪このモフモフはボクだけのものだぁーっ!」
(やだっ、何この変態?)
「では、ウルクススは我が国の王子の姫として貰い受ける」
付き人はそう言うと、無理矢理ウルクススを連れて行こうとした。
「やだっ!こんな変態の所になんて嫁ぎたくないっ!」
ウルクススがダダをこねると、継母が言った。
「何贅沢言ってんの!これで家も豊かになるんだから、それぐらい我慢しなさいっ!」
「やだーっ!やだーーーーっ!!!」
叫びも虚しく、ウルクススはお城へと無理矢理連れて行かれた。
その後、王子は毎日モフモフ三昧で幸せな日々を過ごしましたとさ。