聖母のプライド

凍土の毒研究所にて、研究員として働いているギギネブラ達がいた。
「私達の仕事ってさー、なんか矛盾を感じるわよね~?」
「えっ?どうして?」
「私達って毒にする側じゃない?なのに、その毒を使って抗体を作る研究って、なんかなぁと思ってね~」
「・・・それもそうね、ふふっ」
所内では同僚のママさんネブラ達がおしゃべりをしていた。
「あらっ?あなた、背中に何背負ってるの?」
「えっ?あっコレ?実は、今朝生まれたの、可愛いでしょ♪」
そう答えたママさんネブラの背中には、淡いピンク色をした卵がしっかりと背中へ張り付いていた。
「あなたねぇ、保育園にでも預けてから来なさいよ。子供を職場に連れて来たら、所長に怒られるわよ!」
「えぇ・・・でも、空きが無いからって断られて・・・」
「えっ?あなた達、わざわざ保育園に預けるの?」
「えっ?」
「えっ?常識・・・でしょ?」
「私なんて、その辺に産みっぱなしよ」
「えー?!信じらんな~い」
「心配じゃないの?」
この職場では、保育園に預ける派が大多数のようだった。
「保育園に預けるだなんて、そんな過保護にしてどうするの?」
「え?・・・だって・・・もしもの事があったら・・・」
「私・・・初産だったし・・・」
「(はぁ~)私達の子供はね、放任主義でいいのよ、放任で!」
「そ、そうなの?」
「大丈夫かしら?」
そんなおしゃべりをしていると、所長のロアルドロス亜種がやってきた。
「ヴォッホンッ!ちょっと君君ィ~、そのォ~なんだ、背中に背負ってるのはァ~・・・何かね?」
「えっ?あっ、ごめんなさい!保育園の空きが無くて・・・」
「困るよ君ィ~、神聖な職場に子供を連れてきちゃァ~」
「すみません、まだ孵化しないと思うので、今日だけ許して下さいっ!」
所長は「うゥ~む」と顎の海綿質をゆっくり撫でながら考えた。
「まァ~、孵化しないなら今日ばかりは仕方ないかァ~」
すると、ママさんネブラの背中に張り付いていた卵がモゾモゾとうごめきだした。
「おゥ~っとォ~?」
所長は目を見開いてその孵化の様子を観察した。
ピキーッ、ピシャーッ
小さな鳴き声とともに、卵からワラワラと小さなギィギ達が這い出してきた。
「あぁっ!、すみませんっ!!まだ孵化しないと思ってたんですけど・・・」
ママさんネブラは、必死にこの場をどうしたものかとうろたえた。
しばらく、ギィギ達の様子を観察していた所長は、
「うゥ~む、こんなに数がいるならァ~、どうだろうかァ~、この研究所で実験対象として毒のォ~・・・」
所長はワラワラしているギィギ達を、実験動物でも見るかのようなギラギラした研究者の眼つきで見詰めながら言った。
「だっ、ダメですっ!この子達は・・・この子達だけはっ!!」
ママさんネブラは、子供達を守ろうと必死に所長へ懇願した。
「ははァ~、冗談だよォ~、冗ォ~談ッ♪」
しかし、所長の目は笑っていなかった。
ママさんネブラは思った。
所長、あれ絶対本気だわ!
もし私が承諾したら、実験に使う気だったのよ!!
こんな所で実験に使われる位なら、同僚の言う通り放任しておいた方がよっぽど安全だわ!!