序章 ②

しばらくして弟は目を覚ます。
ベットから立ち上がり、
ふと周りを見渡すと誰もいない。
居間に目をやると、テーブルの上に朝食が乗ってある。
( ああ、狩りに出かけたんだ )
弟は、誰に説明される訳でなく、その事を理解している。
テーブルにあがっているガッツチャーハンを
おもむろに食べ始め、
( 姉さんも、ついていったのか・・・ )
姉は最近、ほとんど狩りには出かけてなかったので、
珍しいな等と思いながら、食事を終えると、奥の部屋に行き
自分の装備箱に入っている、ハンターナイフ改を取り出し
腰に備え付けた。
( そろそろ訓練場に行くか。 )
   ◆◆◆
砂漠に着く頃には昼を過ぎていた。
真上なる太陽は、ジリジリと気温を上げるのに十分過ぎるほど
役にたっているようである。
狩猟場のひとつである砂漠は、昼と夜で全く違う顔を持つ。
昼は、ハンターの体力を奪う程暑く、その暑さは時として
狩りの上での判断を鈍らせるだけでなく、
暑さゆえに動きが鈍くなり隙も生んでしまう。
夜は昼とは間逆に凍てつく寒さがハンターを襲い、
スタミナを奪う。長時間の狩猟は昼と同じで危険を伴い
万全な準備は必要不可欠である。
狩猟場、砂漠。
狩猟場のすぐそばにあるベースキャンプは
日陰に作られており、ハンター達は一休みし体力を回復するに
最適な場所となっている。
先ほど着いたタルタロス達も例外ではない。
すでに、ここに来るまでに消耗した体力を回復する為に、
1時間程休憩する事とした。
その間、タルタロスは自慢の大剣リオレウスを丁寧に研いでいる。
娘と母はテントにある簡易なベッドで横になり仮眠している。
予定していた休憩時間が終わり、
タルタロスが「行くぞ。」と二人に声にかける。
二人はベッドから起き上がると、
早急に装備を身につけ、足早にベースキャンプを
出て行こうとするタルタロスを追いかけた。
今回の目標は盾蟹。
依頼主は、この村の村長
ギルドの掲示板に張ってある依頼内容を読むと
こう書かれていた。
「 盾蟹討伐依頼
   依頼主:村長
   最近、ダイミョウザザミによる被害が後を絶たない。
   ここで正式に討伐を依頼する事に村会で決まりました。
   報酬は盾蟹2匹分を用意します。」
通称ザザミと呼ばれているモンスターだ。
狩場に着くと、目的の狩猟と採取に各々向かうため、
父と娘、母は二手に分かれた。
タルタロスが、ふと遠くを見ると、
何かが潜ったようであった。
(ザザミか。意外に出くわすのが早かったな)
そうタルタロスは思った。
しかし、さらに遠くに目をやると、地中から出る大きな背ビレだけが、
こちらに一直線に向かってくるではないか
「ドスガレオスか。。厄介な奴が割り込んできたな。。」
思わず声に出してしまう程、予想外であった。
しかも、そいつは採取に向かう母に一直線に向かっている。
(何てことだ!)
   ◆◆◆
タルタロスの背中には大きな爪跡の傷がある。
若いころの彼は、血気盛んで、
逃げる事を嫌い、敵に背中を向ける事なく立ち向かい
ただのひとつも背中には傷はなかった。
しかし、ある時に、最愛の人を守る為、覆いかぶさり
火竜の一撃を背中にまともに受け、
深い傷と毒により3日3晩、生死をさまよう事になったのだが、
その時、母は片時も傍を離れなかったという。
そして、父が目覚めた後、母が弓を引く姿は見る事が出来なくなってしまっていた。
   ◆◆◆
今、母の腰についているのは、片手剣。
ほとんど使う事はないが、採取する際に邪魔なランゴスタやカンタロスを
追い払うのには、一役かっている。
しかし、とてもドスガレオスと対峙できるような代物ではない。
タルタロスは娘に目で合図を送る。
それは「母の元へ行け」という暗黙の合図であった。
娘は、コクリとうなずくと、全力で母のほうに走っていった。
彼は、こう考えたのだった。
娘がドスガレオスと母の間に割って入り、
弓で距離を保ちながらドスガレオスを威嚇し、何とか、
自分がザザミを倒している時間だけを稼いでさえくれれば、
この危機は、うまく乗り越えられる。
そう考えていた。
というより、突然の出来事により、それしか考え浮かばなかった。
何にせよ、タルタロスの中のプランを遂行しようとしていた矢先。
そう。次の瞬間。
彼は、轟音をたて地中から現れた生物に目を疑った。
その生物には角が2本存在していた。
盾蟹であれば、1本。
ほんの短い時間ではあるが、
彼がその生物を正確に理解できるまでには時間がかかった。
目の前に現れた者には
翼があり、
尻尾があり、
角が2本ある。
紛れも無く飛竜である。
彼が知る限り、2本の角がある生物はディアブロス以外いなかった。
蟹であるか飛竜であるか、どうかよりも
蟹でない。という事実が驚愕である。
その反応に一瞬判断が遅れたこと自体が、
ディアブロスを前にする狩人には致命的であった。
ドッドッドッド!!!!!
間髪入れずに突進してくるその飛竜の一撃で、
タルタロスは自分の置かれている状況を宙を舞いながら理解し始めていた。