それいけ!ファンゴ君 シーズン4 (33)

ボクは、究極のドスファンゴになる事を夢見て、二匹旅をしている。
リノッチから、大事にしているこの青いスカーフのことについて聞かれたボクは、これを入手した時の話を思い出しながらに語った。
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ボク達が生まれると同時にパパは長旅に出掛け、ボク達はパパの顔を知らずに育った。
好奇心が猪一倍旺盛だったボクは、ママの目を盗んでは一匹で密林を探索するのが日課だった。
鬱蒼と生い茂る林と砂浜の境界線を歩いていた時、数匹のヤオザミに絡まれた。
「オマエみたいなチビ助は、ここを通さないぞ」
「そーだそーだ」
「ブタ助は、向こうでブヒブヒ言って遊んでろ」
ブ、ブタっ・・・?!
コイチュら・・・カニミチョほじくってやるじょっ!
いくら幼いボクでも、ブタと言われて引っ込む程のおモン好しではなかった。
ボクが一歩も引かず、あわや乱闘寸前という時、一頭のドスファンゴが現れた。
「こらこら、君達!多勢に無勢で、小さなファンゴをよってたかって虐めるのはよろしくないよ?」
ドスファンゴの出現で、ヤオザミ達は一目散にその場を逃げ出した。
「まったく・・・ところで君・・・怪我はないかい?」
「あ、ありがとうございまちゅ」
「うん、実に礼儀正しいお子さんだ。・・・おや?その模様・・・そしてその面影は・・・」
ドスファンゴは、ボクの顔をジロジロと見つめた。
「もしかして、君のお母さん・・・左目の下に小っちゃい星形の模様がないかい?」
「えっ?ボクのママ知ってるんでちゅか?」
「あぁ、やっぱりそうか。どうりで・・・似てると思ったよ」
ドスファンゴは何やら感慨深い表情をしていた。
確かにボクの左目の下には、近くで見ないと気付かない程の小さな星形の模様があり、ママにも今では崩れかけた星形の模様があった。
「お母さんは元気かい?」
「あいっ、元気でちゅう」
「そうかそうか、君のお母さんはね、ここいら一帯では美モンさんで有名だったんだよ?」
え?
今ではデップリとした貫禄で、何かと口うるさいママが若かりし頃は美モンで通ってたとは、びっくり以外の何物でもなかった。
「よく君のお母さんを巡って、こぞって取り合いになってたなぁ」
「・・・マジでちゅか?」
「そうだ、君にコレをあげよう」
ドスファンゴは、左前脚に巻いていた青いスカーフを解くと、ボクの首へと巻いてくれた。
「勇気ある君へのささやかなプレゼントだよ。うん、これで君も立派な戦士だ!」
「あ・・・ありがとんでちゅ」
「それでは、お母さんによろしくね」
「あっ、あいっ!」
そうしてドスファンゴはどこかへと立ち去って行った。
ボクは、ドスファンゴが見えなくなるまでその後ろ姿を見つめ、それと同時に、あんなドスファンゴになりたいという目標が芽生えた。
首に巻かれたスカーフが、慣れないせいか少しくすぐったい感じがしたが、これでボクは戦士になったんだ!という小さな誇りを胸に家路へと着いた。
巣穴で待っていたママが、ボクの帰りが遅い事でお小言を言おうとした時、ボクのスカーフに気が付いた。
「ちょっと・・・それ・・・どうしたの?」
「えっへんっ。いいでちょ~、ドスファンゴから貰ったんだっ!」
「えっ?」
ママはポっと顔を赤らめ、ボクへのお小言を忘れ、無言で巣穴の奥へと引っ込んで行った。
なぜに赤面?
・・・まさか・・・あのドスファンゴって・・・パパだったのかっ?
パパだったとしたら、パパはどうしてここへ顔を出さなかったんだろうか?
ボクには分からない大人の事情でもあったのかな・・・?
幼かったボクは、初めてパパに出会えた喜びを噛みしめていた。
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「・・・と、こんな感じかなっ」
「へぇ~、シュールな偶然の再会だったってとこか」
ボクは、幼き日の思い出がまるで昨日のように思えて、しばらくその思い出にひたっていた。
ボクらの飽くなき道の冒険譚はまだまだ続く。