降り注ぐ愛雷

水没林のポカポカと陽気な日差しが当たる場所でうたた寝をしていたラギアクルス亜種。
と、そこへヒラヒラと一枚の大きな葉っぱがそよ風に乗って、ラギアクルス亜種の顔にピタッと張り付いた。
「・・・っぷ。な、何よコレっ?」
眠りを妨げられたラギアクルス亜種は、自身の顔に張り付いた葉っぱを取ると、なにやらそこには鋭い爪で引っ掻いたような文字が書かれていることに気が付いた。
「え~と、なになに?・・・親愛なる君へ・・・」
ラギアクルス亜種は、声に出してその葉っぱに書かれている文章を読み始めた。
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親愛なる君へ
気付くと僕は、毎日、知らず知らずの内に、君の姿を目で追っている事に気付いたんだ。
幼い頃から一緒に過ごした毎日。
僕よりも運動神経の良い君の後を、いつも追い掛けるのに僕は精一杯だった。
そして、立派な雌へと成長を遂げた君に、いつか、この気持ちを告げようと決心したんだ。
でも、君に断られるのが不安で、なかなか僕は言いだせずに、結局この日まで過ごしてしまった。
このままでは、いつか君は他の雄へと取られてしまう。
そんな事を考えると、夜も眠れずにいたんだ。
今、ここで君に伝えたい言葉を言うよ。
好きだ。
これからもずっと、僕の傍にいてくれるかい?
返事は、いつまでも待ってるよ。
そして、僕は断られるのも覚悟して、この手紙を君に贈る。
長年の友である僕より
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手紙を読み終えたラギアクルス亜種は、
「やだ、なにこれっ?!もしかして・・・」
と、ポッと頬を赤らめた。
ラギアクルス亜種には、幼少からの幼なじみであるラギアクルス亜種がいた。
自分よりも泳ぎが遅く、いつも自分の後ろを付いて回っていたあのラギアクルス亜種。
今でも変わらぬ友情で、時折、一緒に遊びに出掛ける事もあったが、まさか自分に対してそんな思いを寄せていたとは、目から厚鱗の思いだった。
「こんな手紙じゃなくて、直接言えばいいのに・・・。どこまでモジモジモンスなのよっ!」
ラギアクルス亜種は、その葉っぱを胸にヒシっと大事そうに押し付けた。
「・・・それじゃ、返事をしに行かなくちゃ・・・ね」
ラギアクルス亜種は、水辺に近寄ると、その水で身だしなみを整えてどこかへと去って行った。
それを木の影から見ていたフロギィ。
「・・・言えねぇ。あれは、俺がフロギィのあの子に書いた手紙だなんて、今更言えねぇ」
あの手紙は、フロギィが自身の爪で葉っぱに書いたもので、書き終わると同時に、一瞬の突風で風に飛ばされたものをここまで追い掛けてきたはいいものの、見事にラギアクルス亜種の顔面へと張り付いてしまったのだった。
もしここでラギアクルス亜種に本当の事を言いに行けば、サイドアタックと、雷玉ブレスは免れないと確信したフロギィは、そしらぬフリをする事に決めた。
「まぁ、これでうまくいけばOK。フラれたら南無三って事で・・・って、もう一回、あの手紙を書かなくちゃいけないのか・・・」
フロギィは、ラギアクルス亜種と反対の方角へトボトボと立ち去った。
ラギアクルス亜種は、長年の友であるラギアクルス亜種のところへとやってきた。
「ちょっとぉー、あなたねー、わざわざこんな手紙を書かなくても・・・」
とそこへ、一匹の雌のラギアクルスがやってきた。
「ごめんなさい、遅れちゃった。待った?・・・って、あれ?どなた?」
ラギアクルスは、手紙を胸にしたラギアクルス亜種に気付いた。
「あ、コイツは幼なじみのラギアクルス亜種。今、偶然ここで会ったんだ」
雄のラギアクルス亜種がラギアクルスへそう説明すると、続けて言った。
「紹介するよ。僕の大事なモンスター・・・ラギアクルスだ。来月、結婚するんだ、僕達」
そう言って、仲睦まじく並ぶラギアクルスとラギアクルス亜種。
それを聞いたラギアクルス亜種は、手元の手紙へと目を向けた。
(それじゃ・・・この手紙は・・・いったい・・・?!)
そして、目の前でイチャイチャし始めたラギアクルス亜種達に向かって言い放った。
「・・・おめでとう。これ、私からのプレゼント。少し早いけど、雷撃シャワーよ。お幸せにっ!」
ラギアクルス亜種は、その周囲へ雷撃を降らせると、どこかへと去って行った。