虚栄

ここはとあるハンターのガーデン。
このガーデンで働く猫達を取り仕切っているのが、麦わら猫だ。
麦わら猫は、猫達を取り仕切る一方で、ハンターである主人の留守中に近くの密林などに出掛け、素晴らしき目利き術により掘り出し物を見付けてくるのが仕事だ。
そんな忙しい日常を送る麦わら猫のところへ主人がやってきた。
仕事から帰ってきた主人は、あちこちが傷だらけだ。
『おや、ご主人、今日も仕事失敗ですかニャ?』
麦わら猫は、主人へ傷の直りが早くなるという秘薬を手渡した。
『して、今日は誰にやられたのかニャ?』
「ガルルガだよ」
『(ギクッ!)ガ、ガ、ガルルガさん・・と言いましたかニャ?』
「ああ、まったく・・傷一つ付けられなかったよ、片目に傷があったけどアレ付けた奴すごいよな~」
『(あわわ、あわわっ)』
麦わら猫は、走馬灯のように先日の出来事が頭の中を駆け巡り、軽いめまいに襲われた。
いつものように、掘り出し物を探しに密林へ出掛けた時、崖の上に何か秘宝らしき匂いを嗅ぎ付け、崖をよじ登り、その匂いの元を探し始めた。
匂いの元はマタタビだった。
(コレは帰ってからの自分へのご褒美とするのニャ)
マタタビを葉にくるみ、大事そうにポーチにしまう。
(さ、そろそろ帰るとするかニャ)
登ってきた崖とは違う方の崖から降りようとした。
(コッチのが帰るのに早いのニャ)
降りている途中、一匹の虫が麦わら猫の回りをブンブンとしつこく飛び交い、払い除けようと持っていたピッケルを軽く振り回した時、足元が滑って崖から転げ落ちる格好になってしまった。
と、その時、崖下にはなんと!イャンガルルガがいるではないか!
『あーーっ、危ないニャーーっ、そこをどくニャーーっ!!』
何かと思い顔を上げたイャンガルルガの頭に、落ちてきた麦わら猫が激突し、持っていたピッケルがイャンガルルガの片目をひっかく形でずりずりと落ちていった。
あまりの痛さにイャンガルルガは我を忘れて怒り狂い、激しい咆哮をあげながらジダンダと激しく足踏みをした。
『(あわわっ、だからどいてと言ったのニャ・・)ごめんなさいなのニャ~』
危うく踏み潰されそうになりながら、麦わら猫は謝罪の言葉を発したが、当のイャンガルルガの耳には届かず、むしろ激しく暴れだした。
(あわわっ、コレはもうダメだニャ、ココは退散するに限るニャっ)
麦わら猫は、その場から逃げるように立ち去った。
それ以来、密林へ出掛ける時はあのイャンガルルガに遭遇しないよう、抜き足差し足で掘り出し物を静かに物色する日々が続いた。
(はぁ~、もうあんな思いはしたくないのニャ)
麦わら猫は、プルプルと硬直していた体を揺さ振った。
「ん?どうかしたのかい?」
『あの~、ご主人、ガルルガさんの片目の傷は私が付けたのニャ・・それで・・』
と言い掛けた時、
「お゛ーーっ?!スゴイなお前っ!!だてに麦わらかぶってたワケじゃないんだ~、いやぁ~他のハンターに自慢してやるよ、ウチの麦わらはスゴイって!」
(あ、あ~、片目のガルルガさんを討伐して欲しいんニャけど・・なんか言えない雰囲気ニャ)
『ま、まあ、昔とったキネヅカだニャっ』