運命 前編

私はキエル。
私は今、一人で森丘のとある洞窟の中にいる。
なぜこんな場所に一人でいるかって?
子供の誕生日にアプトノスの卵をプレゼントしようと、卵を取りにきたってワケ。
昔は、田舎町だけど女ハンターとして名を馳せたもの、運搬ぐらい一人で十分よ。
プレゼントが卵なのも意味があるの。
命あるモノを育て、命の重みを解ってもらうだけじゃない。
私達が食肉としている動物アプトノスをあえて育てさせ、食べ頃になった時にどうすべきか考えさせるの。
どっちが正解とかじゃない。
物事をよく考え、理解し、一方的じゃなく、色々な意見を交換しあえる、そんな大人なって欲しいと思ってね。
どこかの学校でもモスとプーギーを飼育させて、どっちがどうとかやってたわね。
まぁそれよりも見て。
私はこの日の為に、パートでキャラバンの案内役をやりながら地道に貯めたゼニーで特注の卵ケースを作ったわ。
運搬って皆、胸に直に抱えて走るじゃない?
それってどうなの?と思うワケ。
リュック型で蓋付き、内側はもちろんプチプチの保護シートを張ってもらったの。
これさえあれば、多少の衝撃にも耐えられるし、難なく走れると思うわ。
さて、無事に卵もゲットした事だしアイツらに見付かる前にとっとと帰ろうかしらね。
巣から降りて洞窟を出ようとした瞬間、羽音が聞こえてきた。
まずい、急がないと。
今日は武器を置いてきてるからアイツの相手はしてられない。
洞窟を出て、強走ティーを飲み干す。
あとはただ突っ走るのみ。
なんとか無事に自宅に到着できたが、休み無しで走ってきたから汗だくだ。
卵を置いてシャワーでも浴びるか。
と、その時
ビシッ、ビシーッ
あっ、私の背中の体温で温まり過ぎたかしら?
急いで子供を呼んでこなきゃ。
庭で近所の子と遊んでいた我が子を家に呼び戻す。
子供は歓喜の声をあげながら、卵から孵る様子をまじまじと見つめていた。
ピキャーッ、ピキャーッ
孵ったアプトノスの子は、少し異様な形をしていた。
「ママーっ、この子翼あるよぉ?」
雛は、まだ鱗も無く短い翼をパタパタと動かし、餌をねだるように鳴いている。
なんて事だ!
よりによって、リオレイアの卵を持ち帰ってくるとは…
どうしたものか。
今ならまだあの巣に戻せばなんとかなるか。
自分が育てるんだと泣きじゃくる子供をなんとか説得し、孵ったばかりの雛を卵ケースに入れる。
ふっ…
卵ケースに生きた雛を入れる事になるとは。
森丘へ急ぐ為、冷蔵庫から強走ティーを一本取出し、グイッと一気に飲み干す。
卵ケースを背負い、家を飛び出して町の入口に差し掛かった時、向こうから何やら人を乗せた荷車がやってきた。
きっと不慣れなハンターが怪我でもしたのね。
その荷車とすれ違う瞬間、誰が怪我をしたのか荷車に目をやったその時、キエルは一瞬で凍り付いた。