月光アイスタンス

凍土のとあるエリアに、家具屋を営むウルクスス夫婦がいた。
無口で頑固な職人気質の旦那さんが、素晴らしい装飾の家具を作り、いつも笑顔を絶やさない奥さんがお客さんの相手をしていた。
素晴らしい職人技としての家具に、凍土では概ね好評だった。
家具屋の営業時間は、夜間である。
月の光に輝く家具の数々は、来客を魅了してやまない。
今日のお客さんは、ボルボロス亜種の奥さん。
「あら~、いつ来ても素敵な家具ばっかりね~」
「そうでしょう?これなんか、今日完成したばかりのタンスよ」
「あら~、素敵!あっ、そうそう!イトコのボルボロスの結婚祝いにこれ贈ろうかしら~」
「ふふっ、きっと喜ぶわよ」
「それじゃ、このタンスにするわっ♪」
「ありがとうございます!アンタっ!このタンス売れたわよ!」
「・・・・・・」
チラッとこちらを見て、無言でまたトンテンカンと作業に戻る旦那さん。
「ごめんなさいね、いつも愛想がなくて・・・」
「いいえ~、旦那さんは家具を作るのが仕事なんですもの~。あっ、このタンス配達してもらえるかしら?」
「送り先はどちら?」
「えっと~・・・この住所にお願いするわ~」
住所の書かれたメモを手渡された奥さん。
(こっ、ここはっ・・・)
メモに書かれた住所は、なんと!砂原だった。
「ごめんなさい・・・砂原だとウチの家具は・・・」
そう、この家具屋で売られている家具は、氷で作られていたのだった。
「大丈夫よ~、砂原は砂原でも暑いエリアじゃないから、きっと溶けないわよ~」
「そ、そう?・・・それじゃ・・・一応、念の為、夜に到着するように送るわね」
「そうしてちょうだ~い」
氷でできたタンスを砂原へ送ってから数日後。
家具屋に一本の電話が鳴り響いた。
「毎度ありがとうございます、ウルクスス家具店です」
「もしもし?おたく、氷のタンスを送ってくれた家具屋さん?」
「はい、そうです」
「おたく、大変な事をしてくれたわねーっ!」
えっ?
まさか・・・溶けちゃったのかしら・・・?
でも、ボルボロス亜種さんは溶けないって・・・。
「あの・・・、何か不手際でもありましたか?」
「何かじゃないわよーっ!タンスを開けようとした主人が、引出しに指がくっついて取れなくなって、指が凍傷しかけたわよーっ!私達が氷にそんなに耐性が無いの知っててこれ送ったのー?」
「あっ・・・いえっ・・・ボルボロス亜種さんから頼まれまして・・・その・・・」
「あなたね、いくら亜種姉さんから頼まれたからってー、送って良い物と悪い物の区別もつかないのーっ?責任者出しなさいよっ!責任者ーっ!!」
(アっ、アンタっ!この間の・・・砂原に送ったタンスの・・・クレームきてるけど、どうしよう??)
トンテンカンと家具を作っていた旦那さんは、その手を止めると、無言で電話を代わった。
「・・・・・・もしもし」
「あっ、ちょっと!アンター?責任者ってー?!」
「・・・・・・」
「あのさー、おたくから届いたタンスなんだけどさー・・・」
「・・・・・・」
「それでさー、弁償としてさー・・・」
「・・・・・・」
「ちょっとー、聞いてんのーっ?!」
「・・・・・・文句があるなら、ボルボロス亜種に言えっ!!」
ガチャッ!!
旦那さんは、勢いよく電話を切った。
「ア、アンタ・・・」
「・・・・・・あんなの相手にすんな」
「アンタ・・・ぐすっ、惚れ直したわっ!!」
奥さんは旦那さんへと熱いハグをした。
それ以来、地方へ家具を送る際は、家具の不備以外では如何なる弁償も請求しませんという念書を書かせる事にしたという。