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響き渡るは静寂 7

あれから数週間が経ち、メイがディモを引き連れて再びこの沼地へとやって来た。
目的はもちろんキノコ採取だった。

呑気に採取しているメイとは打って変わって、ディモは相変わらず辺りを警戒している。
思う存分な収穫だったのか、メイが立ち上がり、そろそろ帰ろうかとディモへ言ったその時、遠くからノノがこちらにやってくるのが見えた。

「あらっ?無事に生まれたのね?良かった。」
メイは嬉しそうに微笑んで言った。

メイは、初めてノノと対面し、手当している時にノノがお腹に子を宿しているのを気付いていた。
ノノとディモの一戦の後、ディモにもそれを説明し、ディモにもしぶしぶ納得してもらったのだった。

ノノは、まだ足元もおぼつかない子供達を引き連れていた。
子供達は、キャンキャンと嬉しそうに吠えながらじゃれ合っている。

ノノは、メイ達とは一定の距離を保ちつつも、こちらを見つめていたが、しばらくすると、元来た道へと戻って行った。
まだ小さな子供達は、遅れまいと母であるノノの後ろを一生懸命に追って行く。

それ以来、この沼地でノノと子供達の姿を見掛ける事は二度と無かった。

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響き渡るは静寂 6

メイは今日、ディモと一緒に採取に来ていたのだった。
ところが、メイはふと忘れ物がある事にに気付き、ベースキャンプへと戻っていた。
この辺りとベースキャンプの間には、大型のモンスターが出ない事から、ディモはこの辺りでメイが戻ってくるのを待っていたのだった。
戻ってきたメイは、ディモとノノが戦っていて、しかも、遠くからでもよく目立つノノの前脚に巻かれた赤いハンカチに気付いて、急いで走って来た。

「ハァハァ、待ってディモ!そのノノは・・・ハァハァ・・・」
息切らしながら何かを言おうとしているメイにディモは言った。
「やはりあの時の片割れだったんだな、お前が手当してやったノノって」
「ハァハァ、そ、そうなの、ハァハァ、とにかくそのノノは殺してはダメ!!」
「そんな事言ったって、肝心のコイツは襲ってくる気満々だぞ?!とにかくコイツは今ここで殺らないとダメなんだ!」
そう言ってディモはメイに構わずノノに斬りかかる。

一方ノノは、メイの姿を見付けると、赤く染まった体毛が元の色に戻り、ディモの攻撃を交わしつつも、ちらちらと敵意を感じさせない眼差しでメイを気にしているようだった。
ノノは何故かメイを目の前にすると、再び迷いが生じるのか何なのかは分からないが戦意が消失してしまうようだった。

「違うのっ!いいから止めて!!今度は私の言う事を聞いて、お願いっ!ディモっ!!!」
メイは肺が張り裂けそうになるぐらい大きく叫んだ。

いつもは、ディモに話を途中で遮られても怒るどころか、笑って許してくれる優しいメイ。
今までこんなに強く物言いをすることなどは無かった。

さっきからこちらの一方的な攻撃を回避し続けるだけで、全く攻撃して来ないノノに対し、ディモもやる気が失せたのか、剣をグサッと地面に差し、その手を止めた。
「・・・一体何なんだ?お前もコイツも・・・」

ノノは、メイとディモを交互に見つめ、最後にじっとメイを見つめると、その場を去って行った。

巣に戻ったノノは、あの憎きハンターを目の前にしながら、自分の不甲斐無さにイライラを隠せないでいた。
何故かは分からないが、このハンカチの女のせいで復讐心が乱されることに気付いたノノは、前脚に巻かれているこのハンカチを食い千切ってやろうと、乱暴にハンカチへと噛み付くのだった。
ハンカチがボロボロになった頃、ノノはふと何か異変を感じ取った。

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響き渡るは静寂 5

数日後、まるで日課のように沼地のあちらこちらをただ一つの匂いを求めて徘徊するノノ。
毒沼が溢れる辺りに来ると、今まで追い求めていたあの憎きハンターの匂いがしてきた。
意識を鼻に集中させ、その匂いを辿って行くとまぎれもしないあのハンターの姿が見えてきた。
「ウウウウッ」
白い牙を剥き出しに、ノノは唸らずにはいられなかった。

そのハンターはディモだった。
色々な気配、音、匂い、五感をフルに使ってディモは辺りを警戒していた。
狩りの時はいつも4人で行っていたが、今回のディモは一人だった。

茂みが少ないその場所では体勢を低くしても意味は無いのだが、ノノは背を低くしながらディモへとゆっくり近づいて行った。

普通に突っ立っているような時なら察知できないが、ほんの僅かな異変でもあればと警戒していたディモは、何かが近づいてくるような気配を感じ取って、後ろを振り向いた。

そこには、まさに獲物を狩ろうとしているノノの姿があった。
いつもはカムとノノのツガイで行動しているはずだが、そこにはノノの姿しか見受けられない。
「・・・という事は・・・やはりあの時の?!」
ある程度は懸念していたディモだった。
カムを殺られ、残されたノノはきっとディモ達を恨んでいるに違いない。
この一帯に足を運ぶ関係の無い人達はおろか、メイに何かあったらと思うと、ディモはノノを殺るしかないと決意し、背中からその大きな剣を降ろして両手に構えた。

ノノは大きく咆哮すると、体毛を赤く染め、敵意丸出しのディモへ向かって、大地を脚で思い切り蹴って飛び掛かっていった。
ノノの初撃を大剣でガードしたディモは、すぐ様ノノへと向きを直す。

あと一歩というところでディモにガードされたその瞬間、ディモからあの女の匂いがした。
やはり知り合いだったのか?
あの時殺っていれば・・・
後悔しても遅い。
今は目の前のこの男に集中しなければ。
ノノは新たな決意をしたように、ディモに向かって激しく唸る。

今度はディモからの重い一撃がノノを襲う。
ヒラリとノノはその刃を交わし、ディモの後ろ側へと跳躍し、すぐにまたディモに向かって飛び掛かった。
剣が重すぎるせいか、態勢を直すのが一瞬遅れたディモは、左肩へと浅いが傷を負ってしまった。
「・・・っ!!」
気を取り直し、ノノへと斬りかかるディモ。

とその時、
「待って!!」
メイが現れた。

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響き渡るは静寂 4

「よぉっ、メイいるか?」
男は勢いよくドアを開けて入って来た。
「ちょっと、まだ診療時間中よ?静かに入って来てって何度言ったら・・・」
女は村で医者をしていた。
「あぁ、スマンスマン、でも誰も患者いねぇじゃねぇか」
男は背中に携えた大きな剣を取り外し、椅子に腰掛けた。
「これ見ろよ、注文していた剣がやっと出来たんだ」
そう言うと男は、手にした大剣を眺めた。
薄いグレーの装飾毛が施されている立派な剣だった。
「私はそういうのは興味が無いって何度言ったら・・・」
「はいはい、メイは殺生とは一切関わりのない女医様ですからねぇ」
「ディモったら・・・」

メイは、タンポポの葉で作った自家製の熱い茶をディモへと淹れた。
「熱っ、そして苦っ」
「タンポポの葉はね、利尿作用があってむくみにも良いし、血液の循環にも・・・」
「はいはい、要するに体に良いんですね?女医様っ」
「もう、ディモったら・・・」

ディモというこの男、メイの恋人だった。
「あっ、そうだ、この間ね、ゲキレツ毒テングを取りに沼地へ行ったの」
メイは、調合法によっては妙薬となるゲキレツ毒テングを取りに沼地へと採取に行き、そこで出会ったノノの事をディモへ話した。
「お前、物好きだなぁ・・・て言うか、危ねぇじゃねぇか!!採取に行く時は一緒に行ってやるって何度言えば・・・」
メイはプッと吹き出した。
「私の口癖、移っちゃったのね」
ハッと気付いたディモはメイと2人大笑いした。
「生物というのはね、意外とこちらの思っている事や考えている事を察知できるものなのよ。だから敵意が無い事を伝えられたら・・・」

「メイ」
急に真剣な顔に戻ったディモは、メイの話を途中で遮った。
「世の中、そんな甘いモンじゃねぇんだ。ホント、何が出てくるか分かんねぇから、キノコ採りに行く時は必ず俺に声掛けてくれ」
「だから、ただのキノコじゃないって何度言ったら・・・」
ディモの真剣な顔は変わらなかった。
「う、うん、分かったわ」

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響き渡るは静寂 3

この日もノノは、沼地のあちらこちらを例の匂いを探し歩いていた。
しばらく歩いていると、この前脚に巻き付いている赤いハンカチの女の匂いが微かにした。
匂いを辿りながら走って行くと、遠くに女の姿が見えた。

ノノはゆっくりと足を止めた。
女は一人だった。
こちらに無防備な背中を向け、しゃがんで何かをしているようだった。

もしあの男がこの女の知り合いだったら・・・
直接あの男に復讐するよりも、この女を殺った方が・・・
でもこの女があの男の知り合いじゃなかったら・・・
たまたま匂いが付いたとかだったら・・・

色々と考えが過ぎるが、違ったら違ったでも構わない。
もしこの女があの男の知り合いだったら、それはそれで大事なモノを殺される側の気持ちも分かるだろう。
ノノは決心した。
女に気付かれないよう、体勢を低くし、ゆっくりと女へと近づいて行く。

「ふんふんふん~♪」
気楽にも鼻歌混じりにゲキレツ毒テングを採取していたメイは、思ったより大量に採れたので、新しい袋を出そうと鞄を開けた。
その時、鞄から小瓶が落ちてコロコロと転がっていった。
「あっ」
小瓶を拾おうとしゃがんだまま後ろを振り向くと、そう遠くない場所にノノの姿が見えた。

「あらっ?」
前脚にボロボロではあるが、赤いハンカチがしっかりと巻かれたままだった。
メイはゆっくりと立ち上がった。
ノノも低くしていた姿勢も今では無意味と思ったのか、すくっと元の姿勢に戻した。

「そのハンカチ、とっくに食い千切られたのかと思ったら、しっかり残っていたのね」
メイは笑顔でノノに言った。
またもやその理解不能な表情に、決心したはずだったノノは少し躊躇した。
怯えてくれたり、敵意を剥き出しにしてくれれば、何も考えずに女を襲う事ができた。
しかし、その表情には襲ってはいけない何かを感じさせた。

「もう傷は大丈夫?ちょっとした切り傷でもばい菌が入ったら大変だからね」
メイは変わらぬ笑顔をノノに向けた。
ノノは女が何を言っているのか分かるはずもないが、ただその表情からはこちらに危害を加えるような事は無いと実感できた。
だからと言って馴れ合う気などさらさらも無い。
決心に再び迷いが生じたところで、女を襲う気力も失せたノノは、プイっと後ろを向きその場を立ち去った。

ノノの後ろ姿を見送りながらメイは言った。
「お大事に」

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響き渡るは静寂 2

憎きあのハンターの匂いを求めてノノは、以前にも増して何度も何度もこの沼地を徘徊するようになった。
しかし、あれから数か月が経つが、あの匂いのハンターは全く姿を現さなかった。
あちこちと彷徨って歩いている内に、茂みで引っ掛けたのか、前脚に切り傷ができた。
傷に気が付いたノノは、立ち止まってその傷を一舐めし、また歩み始めた。
今日もまた収穫無しかとトボトボと歩いていると、あろうことかどこかのハンターが置き忘れたのか放置してあったシビレ罠を踏んでしまった。
全身の力を振り絞ってその場を離れようとするが、全身が麻痺してピクリとも動かない。

そこへ軽装の一人の女が現れた。
罠に掛かったノノを発見するも、普通ならばある程度の時間が経てば、麻痺効果も消えて自由になるので放っておくところだが、ノノの前脚に血が付いているの見て慌てて駆け寄って行った。
おそらくもうすぐ罠の効果が切れるだろう。
怪我の治療をする為、女はノノに麻酔薬を少量だけ嗅がせてその場へ寝かせた。

血が付いていた前脚を、ガーゼで丁寧に拭き取ると、浅い切り傷だという事が分かった。
ある程度の応急処置道具はいつも持ち歩いていたが、あいにくと包帯までは持っていなかった。
ガーゼでは脚に巻くには小さ過ぎるので、女は愛用のハンカチをノノの前脚へとしっかりと巻き付けた。

麻酔薬が少量だったせいで、処置が終わる頃にノノは目覚めた。
何故自分は横たわっているのだろうか?
ふと何かの気配を感じ、すくっと立ち上がると、目の前には見知らぬ女がいる。
今この状況をすぐに呑みこめないノノは、ピョンと3歩程の距離を後ろへ跳ね飛び、ウウッと低く唸るが、いつもの人間達と違い、この女からは敵意の欠片も感じられない。

女は、にこやかな笑顔で「お大事に」と言った。

ノノはこんな表情をする人間を見た事が無かった。
大半はノノの姿を見ると、怯えるか敵意を剥き出しにしてくるかの二択だった。
一体この女は何なのか理解できずにいたが、これ以上この場に留まる理由も無いので、ノノは急いでその場から立ち去った。

巣穴へ戻ったノノは、前脚に真っ赤なハンカチが巻き付けられている事に気付いた。
傷が剥き出しの時はヒリヒリと痛かったが、今はハンカチで抑えられているせいか、痛みは幾分か和らいでいた。
あの女は傷の手当をしてくれたのだろうか?
ノノは座り込み、そのハンカチの匂いを嗅いだ。
赤いそのハンカチからは、あの女のものらしき匂いがした。
女の匂いに混じり、僅かだが見知った匂いもした。
忘れもしない、あの憎きハンターの匂いだった。

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響き渡るは静寂 1

「アオーーーーーンッッ」
響狼と言われしカム・オルガロンの響き渡る咆哮に、4人のハンター達は皆、後退りする。
ガチャッ。
ハンター達はそれぞれ武器を構え、戦いに挑む。

一方、巣穴の中には、右へ行ったり、左へ行ったりとウロウロ落ち着かない様子のノノ・オルガロンがいた。
それもそのはず、沼地のとある場所でツガイのカム・オルガロンと2匹静かに過ごしていた時、突然4人のハンター達が襲ってきたのだ。
カムに巣穴に戻るよう促され、仕方無くこうして巣穴に戻って来たものの、カムの事が心配でならない。
「クゥーン」
カムを信じて待っている事しかできないノノは座り込み、巣穴の入口から遠い空を眺めた。

ザザッ。
地面を蹴り上げ勢いを付けたカムは、宙へと舞い、背中の棘を直線上に飛ばす。
「あっ!」
着弾した棘の風圧で尻もちを付いてしまったハンター。
「おいっ、大丈夫か?!」
「ゴメン、大丈夫、大丈夫」
すぐさま立ち上がり、戦闘態勢を立て直す。
あれからしばらくの間、死闘を繰り広げたのだろうか、カムの身体のあちこちには、切り傷やら矢傷やらで血だらけになっていた。
それでも手負いの虎のようにカムは、白い牙を剥き出しに激しく唸り、少しの負い目も見せなかった。
「これで終わりだーーっ!!」
リーダー格風のハンターが構える大きな剣がカムへと襲いかかる。
カムはそれを避けようとしたが、一瞬遅かった。
「ウウッ・・・ウッ・・・」
カムはその場にゆっくりと倒れ込んだ。

虫の知らせか、何かを感じ取ったノノは、急いでカムといた元の場所へと全速力で駆けて行く。
辿り着くと、そこには横たわるカムの姿があった。
カムの傍らへと急ぎ、鼻っ柱でカムの身体を突くが何も反応が無い事に、ノノはカムの死を悟った。
辺りを見ると4人のハンター達がいた。
その中でもリーダー格風の大きな剣を携えた男が近寄って来た。
ノノは低く唸りながらその男を睨んだ。
その顔は絶対に忘れない。
そしてこの匂いも絶対に忘れない。
いつしかカムの復讐をしてやると誓ったノノは、強くも哀しげな咆哮を響き渡らせてその場を立ち去った。

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祭りの思い出 11

溶岩地帯へ足を踏み入れてから、かなりの時が過ぎた。

必死なルーとカイルを見ている内に、マークは思った。
自分のしたことは何だったのか?
自分は何を決意したのか?
自分は何をしにここへ来たのか?
ルーは何を思っているのか?
カイルは何を思っているのか?

マークは、ふとポーチを見た。
数年前のあの日から両親は変わった。
今まで自分に無関心だった父は、何かと言葉を交わすようになった。
口を開けば小言ばかりだった母は、時には厳しくもあるが優しくなった。
父の思い。母の思い。
そして自分の思い・・・。
マークは盾と武器を手に地面から腰を上げた。

この厳しい蒸し暑さの中で激しい攻防が続く中、カイルの体力はかなり消耗していた。
武器と盾を握るその手は汗が滲んでいた。
ルーへ攻撃をしたその瞬間、汗で盾が手から滑り落ちた。
ルーは自分に突き刺さったその武器を振り払おうと、その巨体をうならせた。
落ちた盾を拾おうにも、もう間に合わない。
もはやここまでかとカイルは目をつむった。

ガツッ!!
鈍い音が響いたが、自分の体は無事だった。
目を開けると、目の前には盾でしっかりとガードしているマークの姿があった。
「ごめん、カイル」
マークは振り返らずに真っ直ぐにルーを顔を向けたまま言った。
安堵の気持ちと、マークがここに立っている事実にカイルはフッと鼻で笑った。
「おせーよっ」

消耗しきっているのはカイルだけではなかった。
ルーは、ヒレ部分の溶岩が取れているのか鱗が露わになり、その体の艶までをも失っていた。

カイルはすぐさま立ち上がると、ポーチから何かを取り出した。
シビレ罠だった。
ルーの動きが少し鈍った時、その足元へと罠を設置した。
意を決したマークは、渾身の力でルーへ攻撃をしようとしたその瞬間、カイルは捕獲玉を数発ルーへと当てた。
(まあくん・・・まあ・・・く・・・)
ルーはその巨体を静かに地面へ下ろし、麻酔によって眠ってしまった。

「えっ?」
マークは驚いた顔でカイルを見た。
カイルはふふんっと何故か得意顔で言った。
「実はよ、出発する前にじいちゃんから、ルーを故郷へ戻すから捕獲してこいって言われたんだよな」
マークはカイルが何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。

今でも生態に謎の多いヴォルガノス亜種の研究も兼ねて、ルーを生体のまま捕獲し、異国の故郷へ戻す手配をしていた。
ルーを討伐以外の形でどうにかできないか、ギルドマスターに何度も掛け合ったのはカイルだった。

やっと事の事態を把握できたマークは、どうやってこの巨体のルーを異国まで運ぶのかが不思議だった。
「なんか、キャラバンの奴らに手伝わせるって言ってたゼ」
キャラバンで働く労働者の多くは、異国に憧れ、視察だ何だと理由を付けては異国に赴くのが好きだった。
「ま、あいつらも丁度いい理由ができたんじゃないのか」

「一人で考えたって頭でっかちになるだけさ。でも二人三人といれば何かいい考えが浮かぶと思わないか?」
マークは、カイルの言葉に唇を噛みしめ、ルーを見つめた。
何はともあれ殺さずに済んだと安堵の気持ちで、涙ながらにルーを強く抱きしめた。
「カイル・・・ルーを異国に連れて行く時、僕も一緒に行っていいかな?」
マークはルーを抱きしめたまま言った。
「もちろん!ま、その時は俺も一緒だゼっ!!」
カイルはそう言うと、へとへとになった身体をその巨体へもたれかけた。
溶岩流れる流域の水平線に、まさしく溶岩色に染まった太陽が眩しく輝いていた。

Fin

— posted by JUBIA at 12:20 pm   pingTrackBack [0]

 

祭りの思い出 10

「おいっ!来るぞ!!」
まさかここまで来て気が変わったのかと心配したカイルが、マークへ言い放つ。
ルーはその大きな体で溶岩から勢いよく飛出し、岩場のこちらへ這いずって来た。
カイルは自慢の盾でルーの突進をガードした。
ハッと我に返ったマークも慌てて盾でガードした。

ガッッ!!
盾にぶつかったルーの衝撃が重く腕に響き、マークはその衝撃で少し後退りした。
あの頃とは比べ物にもならない大きさに成長したルーだった。

(まあくん♪まあくん♪)
ルーは久しく見るマークに喜びを露わにし、はしゃいでいるのか、その場で空に向かって大きくジャンプした。
着地と同時に地面から振動が伝わってくる。
間一髪、その振動を華麗なステップで回避したカイルは、武器を固く握り直し、その矛先をルーへと向けた。
マークは、ガードしている盾に顔をうずめたまま身動きができないでいた。

(いたいっ、いたいよ、どうしてこのひとはぼくをいじめるの?)
痛みで少し怯んだルーはカイルの方を見た。
(わかった!このひとがいじめっこなんだね?よーし、ぼくがしかえししてやるよ)
ルーはカイルへ向かってズリズリと這いずりだした。
カイルは向かってきたルーをかわし、這いずりが止まった頃合いを見て攻撃を仕掛けた。
一対一の攻防が続く中、マークは遠く離れた所でいまだにガードしたままだった。

「おいっ!何やってんだよっ!!」
カイルの声が届いてないのか、マークは盾の裏側で下に顔を俯いたままだった。
一度は決心をしたものの、成長したルーを目の前にすると、短い間だったがルーと楽しく暮らしていた時の事が走馬灯のように頭をよぎる。
「ルーを攻撃する事なんて、やっぱり僕にはできない・・・」
マークが小さく言った。
マークの言葉がカイルに届く訳もなく、カイルはいまだに攻撃する事ができないマークに苛立ちを隠せなかった。

「攻撃できないんなら、邪魔にならない隅っこで黙って見てろ!!」
カイルは、やはりダメだったかと諦めの溜息をつき、一人攻撃を再開した。
体格が立派なカイルでさえも、その大きな巨体のルーにしてみればちっぽけな人間だった。
傍から見ると、無謀な戦いを挑んでいる一人の若者といったところだろうか。
遠く離れたマークは、盾から少し顔をあげて二人の戦いぶりを見つめた。

激しい戦いの中で、隙を見つけてはルーの脚へ攻撃し、いつしかルーは脚がもたついて地面へ横から倒れてしまった。
カイルは、すかさずルーの腹へ龍撃砲を放った。
大きな火炎とともに凄まじい衝撃を腹に受けたルーは、もがき苦しんだ。
(いたいよー、いたいよー、まあくんたすけてよー)

— posted by JUBIA at 11:19 am   pingTrackBack [0]

 

祭りの思い出 9

夕飯の買い出しを終えたマークの母が帰宅し、家の扉を開けた。
「おっと、おばちゃんこんちわっ、ちょっくらマークと出掛けてくるわ」
カイルがそう言いながら玄関から出てこようとしたその後ろから、マークが現れた。
「母さん、ちょっと狩りに行ってくるよ」

いつも入念に手入れはしているものの、一度も着たことのないその装備に身を包み、少し泣き腫らした顔ではあったが、その目はまっすぐに向いていた。
「マーク、ちょっと待ちなさい!」
母は台所の隅をゴソゴソと何かを取り出してマークへと手渡した。
クーラーミートGだった。
「カイルの分もあるから、仲良く分けて食べなさい」
母は数日前にヴォルガノス亜種の噂を聞いてから、いつでも持参できるように毎晩、特製のクーラーミートをこしらえていたのだった。
「それと、これは父さんからよ」
母は秘薬の入った小瓶を二つ、マークへ渡した。
少し驚いたマークだったが、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、母さん・・・、じゃ行ってくる!」
母は、マークとカイルの姿が見えなくなるまで、玄関で見送った。

メゼポルタのクエスト受付でマークとカイルが受注しようとした時、受付嬢がカイルに気が付いた。
「カイルさん、先程からマスターが探してましたよ?」
「えっ?・・・、ちょっと行ってくるから、マーク、受注して待っててくれ」
と言うと、カイルは足早にギルドへ消えた。

『ヴォルガノス亜種の狩猟、依頼者ギルドマスター』
マークは、依頼内容をじっくりと何度も読み、手続きを済ませてカイルを待った。
カイルはすぐに戻ってきた。
「わりーわりー、さぁ行こうか!」
カイルも手続きを済ませ、火山へと出発した。

浜辺近くのベースキャンプで、ポーチの中を再確認する。
大丈夫、忘れ物は無い。
マークは目をつぶり、一呼吸した。
すると、すぐ傍で「今日もイったるでー!!」と雄叫びをあげながら、空に向かって龍撃砲を一発放つカイルがいた。
「ははっ、相変わらずなんだな、カイルは」
「コレをやらないと調子狂うんだよな」
カイルは、迷いの無いマークの顔付きを確認して安心した。
「さぁ、行こうか!!」

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ベースキャンプを後にした二人は、溶岩地帯の手前で少し突き出た岩場に腰掛け、母からもらったクーラーミートGを食べた。
ヒンヤリしてて、実に美味しかった。
マークは、一口一口丁寧に味を噛みしめながら食べた。
なんだかスタミナも抜群にみなぎるようだった。
カイルも、旨い旨いと連呼しながらペロリとたいらげてしまった。
そして、秘薬の小瓶を一気に飲み干した。
マークは意を決したように頷くと、岩場を後にし、目的の溶岩地帯へと二人は突入した。

相変わらず、蒸し暑さと硫黄の匂いが鼻をつく。
わずかの草と実がなるだけで、ほとんどの植物は熱で枯れたのか、岩場と溶岩しかなく、虫一匹すらもそこに存在していなかった。

溶岩が流れる一帯の遠くに何か動く背ビレのようなものが見えた。
その溶岩の主は、溶岩の中からひょこっと顔を出してこちらを見ている。
「うわっ、でけーなー、これ金冠サイズじゃねえか?」
はしゃぐカイルと打って変わって、マークは久々に見たルーの姿に言葉を失った。

(あれ?まただれかきた)
(・・・まあくん?まあくんだ!まあくん、おっきくなったねー、ぼくもこんなにおっきくなったよー!!)
溶岩の主は、溶岩の中で大きくジャンプをした。
溶岩の塊が二人の傍まで飛び散った。

「あっぶねー」
カイルは咄嗟に横っ飛びをしてその塊を避けた。
マークは、運良くその塊にはぶつからなかったものの、ルーの姿を黙って見ていた。
「ルー・・・」

— posted by JUBIA at 10:19 am   pingTrackBack [0]

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