男達の美学(後編)

茫然としている男に向かって、ババコンガは自分の糞を投げつけた。
ハッと男は我に返った。
「やめろ、やめろ、これ以上、俺を臭くするな!!」
グローブをはめた手で、急いで身体についた糞の破片を払う。
鬼のような形相でババコンガを睨むが、ババコンガは、ニタリとした表情でまた鼻をほじっていた。
プチンッ
男の脳内で小さく何かが弾けた音が聞こえた。
「よくも、よくも、俺の命より大事な消臭玉をーーーっ!!」
男は弓を構え、何発もババコンガめがけて弓をひいた。
ババコンガは、弓を避けるように右へ左へと走り回った。
そして男がビンを装填する隙を狙って、ババコンガはまた男に向かって放屁した。
「クセーーーっ!コイツめ!!」
男は自分自身を見失っていたのか、異臭を放つ自分の装備には目もくれず、ババコンガに向かって猛攻を仕掛けた。
ババコンガも負けじと、自分に放たれた矢をかわし、男に向かって突進してきた。
どれ程の時が経ったのか、両者ともにスタミナ切れかハァハァと息を切らしていた。
疲れ果てたババコンガは、その場にゴロンと仰向けに寝そべった。
男もその隣でゴロンと寝そべった。
生い茂る木々の間から、雲一つ無い青く澄み渡った空が見えた。
静かに目を閉じると、森林浴のマイナスイオンをたっぷりと含んだ澄んだ空気がとても美味しく感じた。
ふと、隣のババコンガへ目を向けると、ババコンガも目を閉じながら静かに深呼吸している。
今まで汚いと思っていた地べたに今、自分が寝転んでいる。
男は、伸ばした手でその辺に生えている草をむしって自分の顔の上に持ってきた。
小さな虫がその草に付いていた。
「ははっ」
男は顔の上に持ってきた草をそのままバラバラと、自分の顔に落とした。
そして、ゴロゴロと地べたを転がり、大地と一体になった。
しばらくして、ババコンガはむくりと起き上がると、クンクンと何か食べ物の匂いがするのか、どこかへと走り去った。
男も防具に付いた草や実を払いながら起き上がると、大乱闘の末か、地面にババコンガの毛が散乱していた。
「アイツとはまた会うことになるだろう」
地面から数本の毛を拾い、男は密林を後にした。
今回の依頼は失敗したが、男は拾ったババコンガの毛を武具工房へ持って行った。
「おう!どうだった?」
店主は男へ気が付くと、声を掛けてきた。
男はババコンガの毛を4本と他の素材、1,500zを店主へ差し出した。
「おぉ、でかした!ちょっと待ってな」
数分して店主がワイルドボウを持ってきた。
男はその弓を受け取ると、店主は少し顔をしかめた。
「お前さん、なんかクセェな」
男はハハっと笑いながら、弓を片手に店を出て行った。