黒く蝕み墓地を染めん

俺は、戦友とも言えるべき友を亡くした。
回りからは黒蝕竜と呼ばれ、忌み嫌われていた俺達だったが、それでも友と一緒にいる時は、時にふざけ合ったり、時には一緒に狩りに出掛けたりしてそれなりに平穏な日々を過ごしていた・・・。
しばらくの間、この遺跡平原を留守にしていた俺だったが、久々に第二の故郷でもあるこの遺跡平原へと戻ってきたついでに、俺は友の墓参りへ行くことにした。
友が葬られている場所は、この遺跡平原の中でもあまりモンスターっ気の無い、小さな池のほとりだった。
俺は、僅かばかりの花と手土産を持って、墓がある場所までやってきた。
墓といっても、まだ若い1本の樹木が墓標代わりになっているだけだ。
俺は、花と手土産をその樹木の根本へそっと静かに置いた。
「これ、見たこと無いだろ?竜仙花って言って、この辺には咲いてない花だ。おまえの為に、摘み取ってきたよ。・・・あと、肉も少しだけど置いておくから、これで腹でも満たしてくれよ」
俺はしばし、追悼の意を込め手を合わせた。
「また来年・・・来れたら来るよ。次もまた珍しい物を持ってくるから、楽しみにしてろよ」
俺は、久々の墓参りを済ませてその場を立ち去ろうとした。
が、そのエリアを出ようとした時、ふと俺に声を掛けてきたやつがいた。
「ちょっと待ちなっ!」
細い枯れ枝を集めて作ったのだろうか?少し不格好なホウキを片手にした年老いたケチャワチャがそこに立っていた。
「困るんだよねぇ、供え物をするのはいいんだけどさ、供物は持ち帰ってもらわなきゃぁ」
は?
何言ってるんだ?コイツ・・・。
「ワシはここらへんの墓守をしてるんだけどさぁ、皆、供物を置いて帰るから大変な事になってんだよぉ。ほら、見てみなっ!」
俺は、さっきまでいた友の墓の方へと振り返った。
そこには、いつのまにかクンチュウの群れが、俺が置いておいた肉にわんさかと群がっていた。
あいつら・・・いつの間にっ?!
「分かったかい?あいつらが食い散らかすから、掃除も大変になるのさ。だから、供物は持ち帰ってもらう決まりなんだよ」
「す、すまなかった・・・そうとは知らなかったんだ・・・」
「知らなかったと言えば、それで済ませると思われても困るんだがねぇ」
「あ、いや、本当にすまなかった・・・すぐに片付けるよ」
「ほら、こういう事が積み重なっていくと、やれ注意書きの看板を立てなきゃならねぇ、やれ規則がどうたらこうたらって、面倒な事が増えるばかりだろ?」
「・・・はぁ」
「みんな、ちゃんとモラルを持った行動をすれば、規則なんてものは本来必要無いのさ」
「・・・はぁ」
何とも面倒な話になってきた・・・。
「今・・・片付けるよ」
俺は、肉に群がっていたクンチュウ達をシッシッと追い払ったが、それでも肉に食い付いて離さないクンチュウがいた。
「早くどかないと踏んづけるぞっ?!」
俺は、しぶといクンチュウを踏み付けようとした。
「そのクンチュウ達も、本当は何も悪くないのさぁ。ただ、食い物がそこにあるからやってきただけで、クンチュウ達だって皆、生きるのに必死なのさぁ」
「・・・・・・」
俺は踏んづけようとしていたその足を下ろし、肉に食い付いているクンチュウを、そっと静かに肉から離してやった。
「世の中、害虫やら害獣やらで騒いでいる所もあるが、決してあいつらだけが悪いとは思わないねぇ。きっと、なるべくしてそうなってるんだよぉ。何事も、結果には必ずその原因となるモノがあるのさぁ」
「・・・はぁ」
俺は、食い散らかっている肉片を片付けながら、墓守の話に耳を傾けた。
「別におまえさんだけを責めてる訳じゃないんだよぉ。ただ・・・一匹でも多くのモンスター達に、この現状やモラルってもんを教えてやりたくてねぇ。まぁ、塵も積もればなんとやら・・・ってやつさぁ」
「・・・そうっすね」
俺に説教するとは正直ウザかったが、実際、墓守の言う事にも一理ある。
俺は今までそんな事は考えた事が無かったが、こうして考えてみると、確かにそうだな・・・と思えてきた。
「それじゃ、俺がその教えを広めてやるよ。一匹でも多く・・・だろ?」
これから出会うやつらに、片っ端から説教を説いてやればいいんだろ?
ちょっとした宣教師って気分だな。
「おまえさん・・・話が分かるイイ男じゃないか。それじゃぁ、この墓守の跡継ぎはおまえさんに決定だなっ!ワシも歳でなぁ、この仕事も結構キツイんだわぁ」
えっ?
いや・・・そんなつもりはまったくないんだが・・・。
俺が・・・墓守?
まさか、そんな・・・無理だろっ?!
「いや、こんな俺がここにいたら、みんな怖がって墓参りなんてしに来ないだろ?」
「いんやぁ、強面のおまえさんがそこにいるだけで、色んな抑止力になるのさぁ。誰も悪さしたり、マナー悪く墓参りなんて出来ないだろぉ?」
「でも・・・いやぁ・・・やっぱ・・・」
「ほらよっ」
墓守は、手にしていた不格好なホウキを俺に手渡した。
「そんじゃ早速、今日から頼むわぁ。あぁ、腰が痛えぇ」
「ちょ・・・おいっ?!」
元墓守は、腰をトントンと軽く叩きながら、その場からいなくなり、ホウキを手にした俺は、しばらくその場に立ちすくんだ。