重厚で重甲な間食?

天空山に、仲睦まじいアルセルタスとゲネルセルタスの夫婦がいた。
何をするにも、夫婦一緒に行動し、回りからもおしどり夫婦のお手本とされていた。
そんなある日、ハンターからの襲撃を見事返り討ちにし、巣へと戻った夫婦。
「あんたっ、今日もお疲れ様」
「おまえもよく頑張ったよ」
互いに、労いの言葉を掛け合う夫婦であった。
しかし、この日、夫であるアルセルタスはふと気付いた事を妻であるゲネルセルタスへと問うた。
「おまえ・・・最近、ちょっと・・・太ったか?」
「えっ?」
戦闘中、妻を持ち上げて飛行する際、いつもより若干の重みを感じていた夫であった。
「いやねーっ、体重はここ最近変わってないわよ?」
「そう・・・か?」
夫は、ガッチリとした胴体、脚の妻の身体をジロジロと見た。
「なによっ?疑ってるの?そりゃぁ、50g前後の誤差はあるでしょうけど、太ってなんかいないわよっ!」
「うーん、でも・・・今日、おまえを持ち上げた時、いつもより重たく感じたんだ・・・」
一歩も引き下がらない夫に、妻は業を煮やした。
「はいはい、それじゃ、私が少しだけ太ったって事でこの話は終わりっ。いいわねっ?」
「そ、そーだな」
ぷんぷんご機嫌斜めの妻をこれ以上機嫌悪くさせるのも、夫して失格だ。
夫は、もうそれ以上の事は言うまいと心に決めた。
ゲネルセルタスの事を心から愛していたアルセルタスは、多少太ったからといって、ゲネルセルタスを見限るような上辺だけの愛情ではなく、太ったなら太ったと、ただ正直に認めて欲しかっただけなのだ。
しかし、それが原因で夫婦喧嘩してしまっては元も子もないと思い、それ以上の言葉を飲み込んだのだった。
ある日、ふと妻がいない事に夫が気付いた。
そういえば、ここ最近、妻がいない事が多くなったと感じていた夫。
餌でも探しに出掛けてるのだろう。
と、最初はそう思っていたが、基本、食事も夫婦一緒に済ませていた為、自分の目を盗んでは小腹を満たしていたのだろう。
意外と女性の方が、食に関して貪欲なのは百も承知だった。
それならそれで、夫は妻を咎める気はさらさらなかった。
「俺もたまにはオヤツを一緒に食べてやるとするか」
夫は、妻を探しに巣を出た。
巣から大分離れた場所で、上空から妻を見付けた夫。
ゆっくりとその近くへ降り立った夫は、こちらに背を向けながらムシャムシャと何かを頬張っている妻の姿があった。
もうオヤツを見付けたのか。
さすがは我が妻。
夫が妻へ声をかけようとした時、妻が食している物がチラリと見えた。
それは、アルセルタスの死骸だった。
夫は、ハッと息を飲むと、妻に気付かれないよう、近くの岩陰に隠れながらその様子をしばし窺った。
妻が・・・アルセルタスを食べているっ・・・?!
何故だっ?
どうしてだっ?
だから、頑なに太った事を認めず、認めてしまったなら間食として食べている物の正体がバレてしまう・・・から?
・・・そういえば、妻は確か・・・バツサンだった・・・。
俺で4匹目のアルセルタス・・・。
もしかして・・・元旦那達は・・・。
夫は、妻に対し、恐怖を感じた。
そして、妻に気付かれてしまう前に、その場を飛び去った。
巣に戻った夫は、ガクガクと震える身体を抑えながら、この先、一体どうすればいいのかを考えた。
そういえば・・・聞いた事がある、雌が雄を食べる種族がいるって・・・。
カマキリとか・・・。
まさか、自分がその類の種族だったとは!
・・・だとしたら、これはどうにも避けられない運命ってヤツなのか?!
愛した妻に食べられる・・・雄として・・・これは本望と思うべきなのだろうか?
だとすると、俺は・・・それを受け入れなければならないのかっ?!
夫の葛藤は続いた。
自分でも気付かない内に、かなりの時間が経っていた頃、妻が巣へと戻ってきた。
夫は、腹を据えて、先程見た妻の行動を問いただした。
「俺は・・・運命ってヤツを受け入れるよ。もしおまえが生きながらに俺を食べても・・・」
妻は大変驚いた様子だったが、一つ小さな溜息を付いた。
「バカね・・・生きたままあなたを食べるワケないじゃない!さっき食べていたのは、アルセルタスの死骸よ?既に死んでいたの。雄は雌よりも寿命が短いのよ。雌が雄を食べるのは、私達なりの弔い方なの」
「・・・そ、そうだったのか?」
「いやねー、あなたったら。そんな風に誤解されると思って、あなたには隠していたのに・・・」
「そうか、そうか、ごめんよ・・・うぅぅ」
夫は妻をひしと抱きしめた。
抱きしめられた妻が、一瞬、目を怪しく輝かせたのを夫は知らない。