天への挑戦

孤島の緑生い茂る地で、ケルビの雌達が世間話をしていた。
「宅のご主人、いつ見ても立派な角よね~」
「そうそう!それに比べたらウチの主人なんて恥ずかしくって~」
「ふふふ、実は私、あの角に惚れて結婚したのよ~っ」
褒められた角を持つケルビは、回りにも自慢できる程、立派な角を生やしていた。
「立派で、立派で、今にも天を貫きそうだわよね」
「んも~、言い過ぎよぉ~」
「あっ、天を貫くと言えば・・・なんか噂で、本当に天をつらぬく角を持ってるモンスターがいるんですって?」
「え~?何ソレ?そんなのいたかしら?」
「噂よ、ウ・ワ・サ!」
褒められた角を持つケルビの妻は、自分の主人の角が世の中で一番だと自負していた為、その話を聞いて内心穏やかではなかった。
「おとぎ話でしょ~?」
「ううん、何て言ったかしら・・ア・・アル・・・そう!アルバトリオン!!」
「あ~、聞いた事ある~!アルバトリオンって!」
「何でも、神域っていう所に住んでるみたいよ」
「神域自体、おとぎ話じゃないの~?誰も行った事ないんでしょ~?」
「だって・・・ねぇ?一度入ったら、二度と生きて戻れない所でしょ?」
「そうそう!友達の友達が言ってた話だけど、すごく暑くてそこにはアルバトリオンしか存在してないって!」
「ふ~ん・・・」
話が主人の角からアルバトリオンに移り、それが盛り上がるのを冷ややかに聞いていたケルビの妻。
「でもね~、実際にこの目で見ない事には、にわかには信じがたいわよね~」
「そりゃそうだけど・・・」
と、その時、どこからともなく低い声が響いた。
「・・・我ハ・・存在ス・・ル・・」
「キャァっ?!」
「何今のっ?!」
「えっ?!」
「・・・我ハ・・アルバ・・トリオン・・也」
「キャーーっ!!」
「ヤダーーっ!!」
「怖いーーっ!!」
それきり、二度とその声は聞こえなかった。
「どこから聞こえたの?」
「その辺にいるの?」
「まさか、神域からのテレパシー??」
「やめてよ~っ?!今夜眠れないじゃないっ!」
「私、帰るねっ!」
「私もっ!」
「待ってよ!私も帰るから置いてかないでぇ~!!」
ケルビ達は、足早にその場から去って行った。
すると、茂みの中から一匹の小さなケルビの雄が出てきた。
「けっ!おばはん達がビビってやんのっ!」
アルバトリオンの真似をしたのは、イタズラ好きで有名な雄ケルビの仕業だった。
一方、実際の神域では・・・。
「ハーックショーイッ!!っとぉ~、ちくしょう!」
オイオイ、誰か俺の噂でもしてるのか?
それとも夏風邪か?
こんな暑い所で風邪なんてシャレになんないぜ。
・・・っかし、暇だなーっ!
誰か来ねえかなぁーっ!!
アルバトリオンが一匹、暇を持て余していた。