メラルーノート

あるところに一匹のメラルーがいた。
彼は、各地に生息する様々なモンスターの生態を独自に調べていた。
自らの目で見た事、聞いた事、体験した事を、彼が命よりも大事にしているノートに書き記し、その内容はモンスター辞典に記載されていないような事実もあり、門外不出とされていた。
後に誰が名付けたのか、メラルーノートと呼ばれるようになった。
ある日、沼地の畔を歩いていたメラルーは、遠くにオルガロン夫妻の姿を見付けた。
『あー、かいーっ!』
カムは、後ろ足で首の付け根を掻き毟った。
『やーね、またどこかでノミ付けてきたんじゃない?』
近寄らないでと言わんばかりに、ノノは不機嫌そうな顔をした。
メラルーは、オルガロン夫妻へと近寄った。
『やぁやぁ、これはこれは、カムの旦那にノノの姐さん、いやぁいつ見ても姐さんの毛艶はお美しいですニャー』
ノノがキッと睨むと、メラルーは『二ャッ』と声をあげ一歩飛び下がった。
『え、えーとですニャー、何やらカムさんがノミでお困りだと風の噂で聞きましてですニャー…』
メラルーは、たすき掛けしているポシェットを開け、ゴソゴソと何かを取り出した。
『ニャニャーン!!』
取り出した袋には、“ノミ取りニャン粉”と書かれていた。
『これは今、メラルー達の間でホットな話題になりつつあるノミを取る魔法の粉なのですニャー』
『それは俺にも効くのか?』
カムは、その粉に少し興味を示した。
『もちろんですニャー!同じ獣種だから効くハズですニャー、試しにカムの旦那にこの粉を付けてあげるですニャー』
(同じ獣種って・・)
ノノは内心思ったがあえてスルーし、静観する事にした。
『ちょっと失礼するですニャー』
メラルーは、カムの背中にと飛び乗り、首の付け根に粉を振り掛けた。
『しばらくしたら効いてくるから、それまでじっとしててほしいですニャー』
『お、おう、サンキューな』
メラルーは、『お大事にですニャー』と軽く礼をすると、どこかへと走り去った。
『おまえも粉付けてもらえばよかったんじゃないか?』
カムはゆっくりとノノに近づいた。
『ちょっと、こっち来ないでよっ、ニャンコ臭いっ!!アタシ、猫アレルギーなの知ってるでしょ?!』
ノノは歯を剥き出してカムを威嚇し、どこかへと走り去った。
『あっ、お、おいっ、ノノっ…』
ポツンと一匹取り残されたカムは、つい、首の付け根を後ろ足で掻き毟ってしまった。
『あっ、しまった!』
後ろ足の爪には、先程メラルーに振り掛けてもらった粉が付着していた。
深い溜め息とともにカムは深くうなだれた。
メラルーはその場を去ったフリをしたが、実は遠くの茸の陰からオルガロン夫妻の様子を観察していた。
そしてメラルーノートへ書き記した。
“カムは恐妻家のようだ”