噂の前触れ

熱砂の砂原から少し離れた、昼間でも涼しげな場所。
そこには浅い泥沼があり、一頭のボルボロスが泥沼に沈み、火照った身体を冷やしていた。
そこへ、上空から一頭のリオレイアが舞い降りて来た。
縄張りを荒らされると思ったボルボロスは泥沼から飛び出すと、リオレイアに向かって啖呵を切った。
「おい!ここをどこだと思ってるんだ?!この糞アマっ!」
「それって・・・私の事かしら?」
いきなり罵声を浴びせられたリオレイアは、いたって冷静に返した。
「お前の事だよっ!ここは俺の縄張りだぞ!」
「ふ~ん」
リオレイアは、ボルボロスの身体をじろじろと眺めた。
「アナタ・・・獣竜種よね?」
「ああ、それがどうかしたか?この糞アマっ!」
リオレイアはくすっと笑った。
「あら失礼。獣竜種のアナタと飛竜種の私・・・どちらが格上かご存知?」
「なっ、なんだとおーっ?!」
ボルボロスは頭から湯気を出しながら、リオレイアに向かって突進した。
リオレイアは、ひょいっと羽ばたいてそれを回避し、低空飛行のまま空振りしたボルボロスに向かってサマーソルトを食らわした。
「なにっ?!」
その衝撃で身体の泥が落ちてしまい、あろうことか毒状態になってしまったボルボロス。
「くっそ・・・!」
「ふふんっ♪泥を纏って無いアナタの弱点は・・・火よっ!!」
リオレイアは静かに着地すると、ボルボロスへ向けて火の球ブレスを吐いた。
「あっち・・・っ!」
反撃を仕掛けるも、リオレイアの攻撃に全く敵わないボルボロスは、戦意を消失した。
「くっそ・・・、俺の負けだ、姐さん・・・煮るなり焼くなり好きにしなっ!!」
ボルボロスはその場へ居直った。
「そうね・・・それじゃ、お手をしてもらおうかしら?」
「は?」
「お手よ、お手!知らないの?」
「なんで俺が犬っころのような真似をするんだよ・・・」
不服そうなボルボロスにリオレイアは言った。
「早くお手をしないと、本当に焼いて食べちゃうわよ♪」
(本当は、アナタみたいに硬くて不味いのは食べないけどね♪)
(くっそ・・・)
ボルボロスは、仕方なくリオレイアの前に跪き、お手をした。
「おりこうさんね、ポチ♪」
(くそっ・・・)
「それじゃ、次は・・・伏せっ♪」
(くっ・・・)
ボルボロスは言われるがまま、その場で伏せをした。
(くっそ・・・こんな所を他の誰かに見られでもしたら・・・)
屈辱を噛みしめるボルボロスに、リオレイアは次々とリクエストしながらも、従順なボルボロスにリオレイアは段々飽きてきた。
「今日の所はこの辺で許してあげるわ。じゃあね、ごきげんよう♪」
リオレイアはそう言うと、空へと飛んで行った。
やっと解放されたボルボロス。
ふと、そのエリアの入口へ目をやると、一匹のジャギィが突っ立っていた。
「おっ、お前っ!いつからそこにっ?!」
ボルボロスは慌てた。
「オイラ・・・何にも見てないっすよ、兄さん。あんな姿とかこんな姿とか・・・何にも見なかった事にするっすよぉ(ニヤニヤ」
「ちょっ、待てっ!お前っ!!誰にも言うなよっ!!!」
ジャギィは小走りで行ってしまった。
翌日の砂原では、ボルボロスのあらぬ噂が広まったのは言うまでもない。