女王、乱心す

ここは、女王が支配する孤島。
女王であるリオレイアは、孤島の治安維持や生態系維持、孤島に住まう全てのモンスターを管理していた。
「ふーっ、今日の仕事はこれで終わりね」
見晴らしの良い高台で、溜まっていた仕事をあらかた片付けた女王は、一息付いた。
「ちょっと早いけど、ティータイムにしてちょうだい」
「御意!」
執事のドスジャギィは、手慣れた様子でお茶の用意をする。
「本日のお茶菓子は、子ケルビのブリュレにございます」
執事は、菓子の説明をしながらテーブルの上に静かに置いた。
「・・・・・・」
女王は、不穏な間をおいた後、翼でテーブルの上のお茶と菓子を一掃した。
「?!・・・何か御不備でも?」
「何かじゃないわよ!今日はポポって気分だったのに!!」
「・・・お言葉ですが、ポポは原産地が離れている為、取り寄せに少々お時間がかかります故・・・」
「取り寄せ?バカじゃないの?誰かに取りに行かせればいいでしょ?クルペッコとかどうせ暇してるんだからあの子に行かせなさいよ!」
「ポポの原産地は凍土故、失礼ながらクルペッコ様ではご無理かと・・・」
「ったく使えない子ね!それじゃあ、空がダメなら海路でガノトトスかラギアクルスにでも行かせればいいでしょ?!」
「大変恐縮ですが、あの者達は水から陸へ上がった途端、凍死してしまうかと・・・」
「ったく、どいつもこいつも頼りないのね!他に誰かいないの?」
「・・・あっ!一人だけおります。ブラキディオス様ですが・・・只今、火山へ外遊に行かれておりますので、戻られてからとなると・・・やはり取り寄せと何ら変わらないかと」
「ったく、タイミング悪すぎよ!他にいないの?!」
執事は、この孤島から凍土まで行ける者を脳内で片っ端から洗い出した。
・・・一人だけいた。
だが、この者だけは如何なる理由があろうとも、依頼するからには高リスクが伴う。
その名は、イビルジョー!
以前、緊急時であの者に依頼した見返りとして、貯蔵していた食材を根こそぎ持っていかれた事もあった。
万が一、その食材で不服の時は、女王様自身の身も危ぶまれるだろう。
否、この孤島全体の危機にさらされると言っても過言ではないっ!
この者の名だけは、女王様に覚られないようにしなくてはっ!
なかなか答えを出さない執事に待ちくたびれた女王は、自分でも他に適任者がいないか考え込んだ。
うーん・・・うーん・・・うーん・・・あっ!
「ちょっといるじゃない!ジョーならどこでも行けるでしょ?」
っ!!
「いっ、いけませんっ女王様っ!!その者だけはっ!!!」
「どうしてよ?私の小腹とどっちが大事なのよっ?!」
「あの者は・・・あの者と関わったら、身ぐるみ剥がされるどころか、女王様御身も危ぶまれますっ!!」
「大丈夫よ、ちょっとジョーを呼んできてちょうだい!」
「いけませんっ!私の目が黒い内は決してなりません!!」
執事は、懸命に女王を諦めさせようとした。
しかし、女王もまた自分の欲求を通そうと必死になる。
「イヤよ、イヤっ!ジョーを呼ぶかポポを連れてくるかどっちかじゃないとイヤーーっ!!」
女王は翼をバサバサと広げ、辺り一面に火のブレスを吐き散らかし、子供がダダをこねるように、執事の手を余してしまった。
「誰か、誰かおらぬかーっ?!女王様がご乱心されたっ!!」
一方、崖上から落ちてきた物に近寄る者がいた。
イビルジョーだ。
クンクンと匂いを嗅ぐと、ケルビの香ばしい匂いが漂っている。
(ばくばぐ)
うっ、美味いっ!
崖の上を見上げるイビルジョー。
確か、この上って女王のいる所だよな・・・。
って事は、これを作ったのはあの桃執事か?
ったく良い仕事するな、あいつは。
どれ、ここは一つ、お招きにあずかるとするか。
イビルジョーは、涎を垂らしながら女王の元へと向かって行った。